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造船・舶用に関わる人の必修ニュース 2026年10月第4週|三菱造船が下関の建造能力倍増策・造船拡大の壁は「人材」と「需要」・受注残は中国64%──これだけ押さえれば情報通

造船トピックス
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「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな造船・舶用業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年10月19日〜10月23日)は、「建造能力倍増の『中身』と『壁』が同時に見えた週」でした。三菱造船の社長が下関造船所の能力を2倍にする具体策を語る一方、日米の海事シンポジウムでは、造船拡大の壁として「人材」と「需要」が挙がりました。世界に目を向けると、新造船の受注残の64%を中国が抱え、日本は6%にとどまります。そうしたなかでも、海外の船主からは日本の造船所の品質を評価する声が出ています。

本記事は2026年10月24日時点の公開情報(日本海事新聞 電子版・日刊鉄鋼新聞・各社発表ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。各トピックは「何が起きたか」→「なぜ重要か」の順で解説します。

※本記事は日本海事新聞 電子版の2026年10月19日付〜10月26日付(10月26日付は先行配信分)の各記事、日刊鉄鋼新聞(10月22日・23日付)、各社の公式発表ほかの公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。

📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)

1. 三菱造船・上田社長「建造能力を倍増」──艤装桟橋の新設と長州出島へのブロック製造移転

【何が起きた?】日本海事新聞の連載インタビュー「国内造船再起動」の初回に、三菱重工業(7011)グループの三菱造船の上田伸社長が登場しました。上田社長は、下関造船所(山口県下関市)の建造能力を2024年度比で2倍にすると述べ、その具体策を明らかにしました(日本海事新聞10月26日付1面)。

📊 三菱造船の建造能力倍増の中身
  • 第1段:艤装桟橋の新設──江浦工場にしかなかった大型の艤装桟橋を大和町工場にも新設し、艤装以降の工程を効率化。2028年12月完成予定。環境省・国交省の「ゼロエミッション船等の建造促進事業」に採択され、事業費65億円のうち助成は21億円程度
  • 第2段:長州出島へのブロック製造移転──船体ブロックを大型化して船台の回転率を上げるため、江浦工場の主要なブロック製造機能を長州出島へ移す。造船業再生基金の関連事業で、事業費は自社負担を含め約1,000億円、助成は最大400億円
  • 足元の事業──下関造船所でフェリー、RORO船、海上保安庁の巡視船などを建造。年間建造量は5隻程度で、8月時点の受注残は22隻、2029年初頭までの仕事量を確保
  • 体制──人員は1,000人規模(下関7割・長崎2割・本社など1割)。下関造船所の構内では協力工500人弱が働く

出典:日本海事新聞10月26日付1面「インタビュー 国内造船再起動(1)三菱造船社長・上田伸氏」

大型客船から撤退した客船事業については、知見や技術は残っており、まずは改修・修繕で実績を積みたいとしました。条件が整えば客船の新造を手掛けたい「夢はある」とも語っています。造船業への注目の高まりについては、経済安全保障の観点で造船業を含む製造業に日が当たるようになったと受け止め、「今が正念場」と述べました(同)。

📐 最近わかった大手の「能力増強」計画(当ブログまとめ)
  • 三菱造船(下関):2024年度比で建造能力2倍。長州出島への移転を含む基金関連の事業費約1,000億円(助成最大400億円)
  • 川崎重工業(坂出):2026〜35年の10年で約1,000億円を投資(基金関連約450億円+その他約550億円)。2035年に売上収益2,000億円超が目標(日本海事新聞10月7日付)
  • 大島造船所:香焼工場を2031年に年10隻(現在年4隻)、全社で年44〜45隻規模へ(同)

いずれも各社が設備を増やす計画で、それを動かす人材の確保が共通の課題です(第2章参照、この一文は筆者の見立てです)

【なぜ重要?】3週前にお伝えした長州出島の用地取得(約1,000億円の計画)は、使い道が船体ブロック工場の新設だと分かっていました(長州出島の深読み解説)。今回、社長自身が艤装桟橋の新設→ブロックの大型化という2段階の手順を説明したことで、能力倍増の道筋がよりはっきりしました。人を大幅に増やすのではなく、工程のボトルネックを1つずつ外していくやり方だといえます(この段落の後段は筆者の見立てです)。三菱重工の株価や業績は三菱重工業(7011)の銘柄ガイドで解説しています。

2. 日米海事シンポ、造船拡大の壁は「人材」と「需要」──JMU常務「育成には長い時間」

【何が起きた?】運輸総合研究所は10月22日(現地時間)、米国ワシントンD.C.で「日米海事シンポジウム2026」を開きました。日米の政府・民間事業者が参加し、パネルディスカッションでは造船能力の拡大のボトルネック(制約)について議論しました(日本海事新聞10月26日付2面)。

登壇者挙げたボトルネック
MTI 安藤英幸常務人材──2000年以降の再編で設計・生産管理の人材や熟練工が減り、AIやロボットを研究する人材も少ない
JMU 奈良間真也常務執行役員労働力──設備は投資で増やせるが、熟練作業員・設計者・生産管理者の育成には長い時間がかかる
アメリカ船級協会(ABS)ウォーカー副会長貨物需要の創出──官民連携で問題を解決する必要
ゼネラル・ダイナミクス・ナスコ ハーシュマン氏受注残高──貨物がなければ受注残を確保できない
出典:日本海事新聞10月26日付2面

JMUの奈良間氏は「設備は投資で拡張できるが、熟練作業員・設計者・生産管理者の育成には長い時間がかかる」と述べ、過去の不況期の大規模な構造調整で、業界の人材基盤が大幅に縮小したと説明しました。造船業界の認知度の低下もあり、新たな人材の確保も難しいとしています(同)。

【なぜ重要?】先週の深読みでお伝えしたとおり、日本の造船業で働く人は2016年の約9.1万人から約7.7万人に減っています(造船の人手不足の深読み解説)。日本側の登壇者がそろって「人」を挙げ、米国側が貨物の需要を挙げたのは、両国が抱える課題の違いを表しています。日本は仕事はあるが人が足りず、米国は造る力以前に船の需要づくりが課題──という対比です(この段落の解釈は筆者の見立てです)。

3. 世界の受注残、中国が64%──日本は6%、2028年に中国は過去最高の引き渡しへ

【何が起きた?】ボルチック国際海運協議会(BIMCO)が10月22日に発行したリポートによると、世界の新造船受注残の64%を中国の造船所が抱えています。中国以外のシェアは韓国が19%、日本は6%にとどまります(日本海事新聞10月26日付2面)。

項目数字
世界の新造船受注残推計2億320万CGT(9月1日時点、前年同時期比13%増)
受注残の国別シェア中国64%・韓国19%・日本6%
過去1年の新造船契約に占める中国の割合74%(CGTベース)
主要6船種の受注残に占める中国の割合88%(コンテナ船は81%)
中国の引き渡し予定2028年に過去最高の4,400万CGT(2025年の実績2,270万CGTの約2倍)
出典:BIMCOのリポート(日本海事新聞10月26日付2面)

BIMCOのチーフ海運アナリスト、ニールス・ラスムッセン氏は、中国が予定どおり引き渡すには年間の建造量を過去最高まで引き上げる必要があると指摘。さらに、建造能力を増強した場合、将来、新造船の契約が鈍ったときに稼働率が下がるリスクが高まるとも述べています(同)。

【なぜ重要?】先週、JECK造船首脳会議で造工の檜垣会長が受注や手持ち工事量の特定国への集中を指摘したことをお伝えしました(先週の必修ニュース)。今回のBIMCOの数字は、その集中の大きさを具体的に示すものです。日本が建造量を2倍にしても、世界の中での比重を取り戻すのは簡単ではありません。一方で、中国の造船所が予定どおり造れなかった場合、品質と納期の信頼性で選ばれる日本の造船所に注文が回ってくる可能性もあります(この段落の後段は筆者の見立てです)。

4. 鉄鋼側からの動き──日本製鉄が造船ブロック加工を検討、厚板は追加値上げ

【何が起きた?】今週は鉄鋼メーカーからも造船に関わる動きが2つありました。1つは、日本製鉄(5401)が造船ブロックの加工能力の拡大と、溶接の生産性向上で国内造船業の再生に貢献する方針を示したことです。グループ会社の日鉄溶接工業と組み合わせて提案していく考えで、建造量が2035年に2倍になれば、造船用厚板の需要は現在の約270万トンから1.5倍程度まで増える可能性があるとしています(日刊鉄鋼新聞10月22日付1面)。

もう1つは、同社が国内向けの厚板を11月新規契約分からトン5,000円追加値上げする方針を固めたことです。今年度の累計値上げ幅はトン2万円になります。値上げの対象はひも付き・店売りの全分野で、造船向けも含まれます(日刊鉄鋼新聞10月23日付1面)。

【なぜ重要?】厚板は船の材料の中心で、国内の厚板需要の4割強を造船向けが占めます(日刊鉄鋼新聞10月22日付)。鋼材のコスト増は船価を押し上げる要因になる一方、鉄鋼メーカーがブロック加工まで担えば、人手不足に悩む造船所の負担を減らせます。鉄と船の関係が、材料を売り買いするだけの関係から一歩進むかどうかが注目点です(この段落の後段は筆者の見立てです)。詳しくは今週の鉄鋼版の必修ニュースで解説しています。

5. 今週の受注・竣工──デンマーク船主が日本で9隻、HMMは12隻に2,500億円

【何が起きた?】デンマークのドライバルク船社ローリッツェン・バルカーズのマーティン・クニオ・サトウCEOが日本海事新聞の書面インタビューに答え、日系造船所で新造発注残9隻を確保していることを明らかにしました。日本の海事産業について「高品質な船舶、信頼できるカウンターパーティー、そして競争力のある長期資金の調達先として、長年にわたり重要な存在だ」と述べています(日本海事新聞10月23日付2面)。

造船所・会社案件ポイント
今治造船・函館どつく・尾道造船・新来島どっくローリッツェン・バルカーズ向けハンディサイズ・ウルトラマックス計6隻2027〜29年納期
常石造船セブ工場(フィリピン)同社向けメタノール2元燃料カムサマックス3隻2026〜27年に竣工予定
未公表韓国HMMがコンテナ船12隻(1万3,000TEU型8隻の新造発注+リセール4隻)に約16億ドル(約2,500億円)を投資(10月15日発表)最終引き渡しは2029年12月予定。建造造船所は非公表
JMUアムテック(船体部)深田サルベージ建設の起重機船「霧島」が就航(10月15日)最大吊り上げ850トン。クレーン部はタダノインフラソリューションズ
HD現代重工業(韓国)シンガポールEPSのアンモニア2元燃料VLAC「Terra Clove」の命名式(10月22日)9万3,000立方メートル型、エヴァレンスのアンモニア燃料エンジンを搭載
出典:日本海事新聞(10月19日付1面、10月21日付2面、10月23日付2面、10月26日付2面)

【なぜ重要?】サトウCEOは、中国の造船所は生産能力が大きく価格競争力があることが多いとしつつ、日本の造船所については「一貫した品質、効率的な設計、信頼性の高いプロジェクト実行」を評価しています(同)。受注残の64%を中国が握る世界でも、品質と信頼で日本を選ぶ船主が確かにいることが分かります。今治造船・尾道造船・新来島どっくの詳しい解説は、今治造船・尾道造船・新来島どっくの各記事をどうぞ(前段の解釈は筆者の見立てです)。

6. 今週の短信──アンモニア燃料VLAC、マースクのインド入渠、欧州の融資規制ほか

  • マースクタンカーズ、VLACをアンモニア燃料に改造する計画──韓国HD現代三湖で連続建造中のVLAC10隻(就航済み2隻)について、顧客の同意が得られればアンモニア2元燃料エンジンへの改造(レトロフィット)を行う。計画はEUのイノベーション基金の支援対象に選定(日本海事新聞10月23日付2面)
  • マースク、インドで初の計画入渠──L&Tシップビルディングのカトゥパリ造船所で、コンテナ船の船齢10年時の計画整備を実施。インドを海事産業の拠点として重視(日本海事新聞10月23日付3面)
  • EUの新しい銀行規制(CRDVI)、邦銀の欧州向け船舶融資に影響──EU域外の銀行が欧州の企業に融資する際、現地支店の設立などが必要に。第三国支店の開設義務は2027年1月11日から適用予定。独弁護士は欧州でのクレジットファンド活用を提言(日本海事新聞10月23日付1面)
  • シエム、LNG2元燃料の自動車船2隻を中国の自動車メーカーに5年間貸船──用船料収入は総額約1億8,000万ドル。自動車船の逼迫が続く(日本海事新聞10月23日付2面)

7. 今週の用語解説

艤装桟橋(ぎそうさんばし)とは

進水した船を横付けし、エンジンや配管、内装などを取り付ける「艤装」を行う岸壁。艤装桟橋が足りないと、進水した船がつかえて次の船を進水させられず、建造能力の制約になります。

CGT(標準貨物船換算トン数)とは

船の種類や大きさによって異なる建造の手間を考慮して、建造量を比べやすくした単位。同じ総トン数でも、LNG船のように造るのが難しい船はCGTが大きくなります。

リセールとは

ほかの船主などがすでに発注している新造船を、完成前に買い取ること。自分で一から発注するより早く船を手に入れられます。

入渠(にゅうきょ)とは

船をドックに入れて水から上げ、普段は水中にある船底などを検査・修繕すること。船は数年ごとに定期的な入渠が必要です。

8. まとめ──今週の3行サマリ

  1. 三菱造船は下関の建造能力を2倍に──艤装桟橋の新設(2028年12月完成)→長州出島へのブロック製造移転の2段階
  2. 造船拡大の壁は「人材」と「需要」──日米シンポでJMU常務が熟練者の育成に長い時間がかかると指摘
  3. 受注残は中国64%・日本6%──それでも品質を評価する海外船主から日本に9隻の発注残
👀 来週以降の注目
  • 日本海事新聞の連載「国内造船再起動」で、ほかの造船会社のトップが何を語るか
  • 重工各社(三菱重工・川崎重工・IHI)の上期決算と、船舶部門の受注・利益
  • 厚板の値上げが、造船所と鉄鋼メーカーの価格交渉にどう影響するか

能力倍増の具体策が見え始める一方で、人と需要という根本の課題も改めて浮き彫りになった1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。

💡 ぞうせんおじさんの一言

設備はお金で増やせても、人はすぐには育たない──今週はこの言葉がいちばん心に残りました。造船は今、人を大事にする会社ほど伸びる時代です。
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本記事の出典:日本海事新聞 電子版(HMMのコンテナ船投資〔10月19日付1面〕、深田サルベージ建設「霧島」〔10月21日付2面〕、欧州CRDVIと邦銀の船舶融資〔10月23日付1面〕、ローリッツェン・バルカーズ・マースクタンカーズのVLAC・シエムの自動車船〔10月23日付2面〕、マースクのインド入渠〔10月23日付3面〕、三菱造船・上田社長インタビュー〔10月26日付1面〕、日米海事シンポジウム・BIMCOの受注残リポート・EPSのアンモニア燃料VLAC〔10月26日付2面〕)、日刊鉄鋼新聞(日本製鉄の造船ブロック加工〔10月22日付1面〕、日本製鉄の厚板追加値上げ〔10月23日付1面〕)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。数値は各記事の公表時点のものです。

⚠️ 注意点

本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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