「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな造船・舶用業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年10月12日〜10月16日)は、「仕事は3.6年分あるのに、造るスピードが上がらない──人手不足の壁が数字に表れた週」でした。9月の輸出船受注は17隻で、手持ち工事量は約3.6年分を維持。一方で経済産業省は、造船向けの鋼材需要が人手不足で前年より約1割減ると見込んでいます。国際会議では今治造船社長でもある造工会長が受注の「特定国への集中」に触れ、国内では初の国産CTV(洋上風力の作業員輸送船)がお披露目されました。
本記事は2026年10月17日時点の公開情報(日本海事新聞 電子版・各社発表ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。各トピックは「何が起きたか」→「なぜ重要か」の順で解説します。
※本記事は日本海事新聞 電子版の2026年10月14日付〜10月19日付(10月19日付は先行配信分)の各記事、日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞(経産省の鋼材需要見通し)、各社の公式発表ほかの公開情報に基づき作成しています。10月13日付の記事は先週の記事で紹介済みです。数値は各記事の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 9月の輸出船受注は17隻・51万総トン──手持ち工事は約3.6年分、納期は2030年度まで
- 2. 造船向け鋼材、10〜12月は前年比9.8%減の見通し──人手不足で建造ペースが上がらず
- 3. JECK造船首脳会議、米国・インドも参加──造工会長が受注の「特定国への集中」を指摘
- 4. 日本郵船、初の国産CTVを秋田で披露──釜石の小鯖船舶工業が建造
- 5. 今週の受注・竣工──JMU呉で100隻目、自動車船の発注は続く
- 6. 今週の短信──液化水素ローディングアームが完成、舶用マイスター34人ほか
- 7. 今週の用語解説
- 8. まとめ──今週の3行サマリ
1. 9月の輸出船受注は17隻・51万総トン──手持ち工事は約3.6年分、納期は2030年度まで
【何が起きた?】日本船舶輸出組合が10月15日に発表した9月の輸出船の受注実績は、17隻・51万総トンで、総トン数は前年同月比26%減でした。国内の主要造船所は手持ち工事が増え、商談の中心は2030年以降に納期を迎える船です。資機材価格や為替の先行きが不透明なことから船価は強含みが続いていますが、従来燃料の船を中心に船主の発注は続いています(日本海事新聞10月16日付2面)。
| 項目 | 9月の実績 |
|---|---|
| 受注(契約) | 17隻・51万総トン(総トン数で前年同月比26%減) |
| 船種の内訳 | ハンディサイズバルカー12隻、ハンディマックスバルカー2隻、パナマックスバルカー1隻、ケープサイズバルカー1隻、ケミカル船1隻 |
| 海外船主向け(純輸出船) | 6隻(ギリシャ2隻、英国1隻、カナダ3隻) |
| 納期の内訳(トン数ベース) | 2028年度22%、2029年度54%、2030年度24% |
| 竣工(通関実績) | 18隻・74万総トン(前年同月比6%減) |
| 9月末の手持ち工事量 | 633隻・2,991万総トン(約3.6年分) |
【なぜ重要?】受注した17隻のうち16隻がバルカーで、日本はバルカーという色分けがはっきり出ています。納期の半分以上が2029年度、4分の1が2030年度と、4〜5年先の船を今売っている計算です。先週お伝えした大島造船所の手持ち3.9年分とあわせ、日本の造船所は仕事の量より、それを造る力(人と設備)が制約になりつつあります。この点は次の第2章の数字にも表れています(先週の必修ニュース、この段落は筆者の見立てです)。
2. 造船向け鋼材、10〜12月は前年比9.8%減の見通し──人手不足で建造ペースが上がらず
【何が起きた?】経済産業省が10月15日に発表した10〜12月の鋼材需要見通しで、造船向けの普通鋼鋼材は72.1万トンと、前年同期比9.8%減、前期比4.4%減の見通しになりました。日刊産業新聞によると、造船は手持ち工事量が高い水準にあるものの、人手不足で建造のペースが上がらないことが減少の理由です(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月16日付1面)。
| 造船向け普通鋼鋼材(国内消費) | 数量 |
|---|---|
| 2025年度10〜12月(実績) | 79.9万トン |
| 2026年度7〜9月(実績見込み) | 75.4万トン |
| 2026年度10〜12月(見通し) | 72.1万トン(前年同期比−9.8%、前期比−4.4%) |
【なぜ重要?】船は鋼材の塊です。造船向けの鋼材需要は、実際にどれだけ船を造っているかを映す鏡といえます。受注は好調で手持ち工事も多いのに鋼材の使用量が減るのは、注文はあるのに造る人が足りない状況を数字で示したものです。国が掲げる2035年の建造量倍増には、設備投資と並んで人材の確保が欠かせません。国の計画の全体像は建造能力2倍計画の深読み解説、鉄鋼側の見方は今週の鉄鋼版の必修ニュースで解説しています(この段落は筆者の見立てです)。
造船業界への就職・転職を考えている方にとっては、人手不足=採用の門が広いということでもあります。各社の売上や年収は日本の造船会社ランキングで比較できます。
3. JECK造船首脳会議、米国・インドも参加──造工会長が受注の「特定国への集中」を指摘
【何が起きた?】日本・欧州・中国・韓国の造船業界団体のトップが集まるJECK造船首脳会議の第32回会合が、10月15日にスペインのカディスで開かれました。今回は欧州造船団体ユーロヤーズの主催で、日本造船工業会(造工)、中国船舶工業行業協会、韓国造船海洋プラント協会の首脳陣に加え、ゲストとして米国とインドの関係者も参加し、計101人が出席しました(日本造船工業会の発表、日本海事新聞10月19日付2面)。
基調演説では、造工の檜垣幸人会長(今治造船社長)が、いくつかの国・地域で造船業が経済安全保障に関わる重要な産業と位置づけられ、再建・強化の動きが広がっていることを紹介しました。そのうえで、新造船市場は堅調な一方、受注や手持ち工事量の特定国への集中が進んでいる点を指摘しています。会議の最後には、造船業が海上貿易や強靱なサプライチェーン、経済安全保障を支える重要な産業であることを確認し、地政学的リスクの高まりへの認識を共有する議長声明を採択しました。次回の第33回会合は中国の主催で、2027年10月27〜29日に広州で開かれます(同)。
【なぜ重要?】特定の国の名前は出ていませんが、世界の新造船の受注では中国のシェアが大きいとされます。造船の再建を掲げる米国やインドがゲストとして加わったのは、造船が各国の安全保障政策と直結する産業になったことの表れです。日本の造船所にとっては、米国などとの協力が新たな商機になる可能性もあります(この段落は筆者の見立てです)。今治造船の位置づけは今治造船の株は買える?で解説しています。
4. 日本郵船、初の国産CTVを秋田で披露──釜石の小鯖船舶工業が建造
【何が起きた?】日本郵船(9101)は10月14日、初の国産CTV(洋上風力発電所への作業員輸送船)「ALFONSINO ARROW」の完成披露式典を秋田港で開きました。全長約28メートル・約145総トンで、今年春に小鯖船舶工業(岩手県釜石市)で竣工しました。洋上で作業員を運ぶ船の国際基準「IPコード」の要件を国内建造船として初めて満たし、最大24人を運べます(日本海事新聞10月16日付1面)。
同船は秋田県の洋上風力発電事業者に長期用船され、2027年春に始まる予定の男鹿市・潟上市・秋田市沖の洋上風力発電所の基礎工事で使われます。郵船の長澤仁志会長は「洋上風力発電は海を舞台とし、当社が長年培った海の技術と知見を生かせる事業」と述べました。渡辺浩庸専務執行役員は、建造には小鯖船舶工業をはじめ国内企業の知恵と技術が結集していると強調しています。国産2隻目のCTV「BELUGA ARROW」も同じ造船所で7月に命名式を迎え、2027年春に竣工予定です(同)。
【なぜ重要?】先週は、住友商事が出資するIWSフリートが洋上風力の作業支援船(CSOV)4隻を発注したことをお伝えしました。IPコードの要件を満たす国内建造のCTVはこれまでありませんでした。地方の中小造船所が国際基準を満たす船を造れることを示した点で、今回のCTVは日本の造船業にとって新しい市場の入り口になり得ます(この段落は筆者の見立てです)。
5. 今週の受注・竣工──JMU呉で100隻目、自動車船の発注は続く
| 造船所・会社 | 案件 | ポイント |
|---|---|---|
| JMU 呉事業所 | 次世代省エネ型ケープサイズバルカー「THESEUS」(18万2,531重量トン)引き渡し(9月30日) | 18万1,000重量トン型の14隻目。2013年のJMU発足以来、呉での100隻目 |
| JMU 津事業所 | スエズマックスタンカー「SONIC」(15万9,034重量トン)引き渡し(10月7日) | 燃費性能を高めた次世代型。SOxスクラバーを搭載 |
| 未公表(中国の可能性) | ノルウェーのNOCC(JPモルガン傘下)が7,100台積み自動車船2隻を発注 | 2030年納期。同型4隻は中国のCIMCラッフルズに発注済み |
| 未定(リース) | 中国の寧波遠洋運輸が7,000台積みLNG2元燃料自動車船2隻をリースで調達(10月9日発表) | リース総額の上限4億8,000万ドル、期間は最長20年 |
| 滬東中華造船(中国) | 日本郵船とMISCの合弁会社が、マレーシアLNG(ペトロナス子会社)と小型LNG船1隻の長期用船契約 | 1万8,700立方メートル型。2028年以降に竣工し、日本向けLNG輸送に従事 |
| マイヤー・ベルフト(ドイツ) | オリエンタルランド(4661)が日本向けディズニークルーズ船の名前を「ディズニー・イマジネーション」と発表(10月14日) | 日本籍船で過去最大規模の14万総トン級。2029年春に東京発着で就航予定、投資額は約3,300億円 |
【なぜ重要?】先週お伝えした自動車船の「未曽有の需給逼迫」を受け、今週も欧州と中国の船社から自動車船の手当てが続きました。ただ、建造先は中国の造船所かリース会社経由が中心です。一方の日本は、JMU呉の100隻目に象徴されるように、バルカーとタンカーを着実に積み上げる形が続いています(この段落は筆者の見立てです)。JMUの成り立ちはJMU(ジャパンマリンユナイテッド)とは?、株で間接的に関わる方法はJMUの株価はある?で解説しています。
6. 今週の短信──液化水素ローディングアームが完成、舶用マイスター34人ほか
- 川崎重工業(7012)と東京貿易ホールディングス、世界初の6インチ液化水素ローディングアームの共同開発を完了(10月14日発表)──船と陸の間で液化水素を積み降ろしする装置で、国際規格ISO24132に準拠し商用仕様の認証を取得。川崎市に建設中の川崎LH2ターミナルに3基設置され、4万立方メートル型の液化水素運搬船の荷役に使われる(日本海事新聞10月15日付2面)。運搬船の話は液化水素運搬船の深読み解説で
- 日本舶用工業会、2026年度の舶用マイスターに30社34人を認定(10月15日)──2007年度からの累計は628人。木下和彦会長(阪神内燃機工業社長)は、人材の確保・育成が業界の喫緊の課題だと強調(日本海事新聞10月19日付2面)
- 輸出船(日本船舶輸出組合):633隻・2,991万総トン、約3.6年分(2026年9月末)
- 大島造船所:157隻、約3.9年分(2026年10月6日の会見時点)
- 中小型造船(日本中小型造船工業会):3.92年分(2026年6月末、建造契約ベース)
出典:日本海事新聞(10月16日付2面、10月7日付1面、9月25日付)。集計の範囲・基準が異なるため、単純比較はできません
- 自動車船の発注は日本の造船所に来たか → 今週判明したNOCCの2隻は建造先が未公表(同型船は中国で建造)、寧波遠洋の2隻はリースでの調達で、日本の造船所への発注は確認できていません(第5章)
- 他の造船会社も基金以外の投資額を示すか → 今週は新たな公表を確認できていません
- 鋼材値上げの船価への影響 → 日本海事新聞は、資機材価格や為替の先行きが不透明ななかで船価の強含みが続いていると伝えています(第1章)
7. 今週の用語解説
総トン(G/T)とは
船の大きさ(容積)を表す単位で、重さではありません。造船の受注量や建造量は、主にこの総トンで比べます。2035年に年1,800万総トンという国の目標も総トンベースです。
CTV(シーティーブイ)とは
Crew Transfer Vesselの略。洋上風力発電所に作業員を毎日送り迎えする小型の高速船です。先週紹介したCSOVが洋上で寝泊まりもできる大型の作業支援船なのに対し、CTVは作業員の通勤に使う船にあたります。
ローディングアームとは
岸壁に置かれ、船と陸上タンクの間で液体を積み降ろしするための関節付きの配管装置。マイナス253度の液化水素を扱うには、断熱や漏れ防止で高い技術が必要です。
JECK(ジェック)とは
Japan・Europe・China・Koreaの頭文字。世界の主要造船国・地域の業界団体トップが年1回集まり、市場の見通しや課題を話し合う会議です。
8. まとめ──今週の3行サマリ
- 9月の輸出船受注は17隻、手持ちは約3.6年分──16隻がバルカー、納期は2030年度まで
- 造船向け鋼材は前年比9.8%減の見通し──仕事はあるのに人手不足で建造ペースが上がらない
- 国際会議で受注の「特定国への集中」に言及、国産CTVも誕生──造船は安全保障と新市場(洋上風力)の両面で存在感
- 造船各社の人材確保策(採用・外国人材・自動化投資)の具体化
- 自動車船の発注で、日本の造船所への発注が出てくるかどうか
- これから発表が本格化する重工各社(三菱重工・川崎重工・IHIなど)の上期決算
受注は堅調でも、造る力が追いつかない──日本の造船業の課題がはっきり見えた1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:日本海事新聞 電子版(日本郵船の小型LNG船・寧波遠洋の自動車船〔10月14日付1面・2面〕、ディズニー・イマジネーション〔10月15日付1面〕、NOCCの自動車船・川崎重工などの液化水素ローディングアーム〔10月15日付2面〕、日本郵船の国産CTV〔10月16日付1面〕、日本船舶輸出組合の9月実績〔10月16日付2面〕、JECK造船首脳会議・JMUの竣工2隻・舶用マイスター〔10月19日付2面〕)、日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞(経産省の10〜12月鋼材需要見通し〔10月16日付1面〕)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。数値は各記事の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。


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