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深読み解説|仕事は3.6年分あるのに、なぜ造船向けの鋼材は減るのか──就労者は9年で約1.4万人減、「人手不足」が建造量倍増の壁になる理由

造船トピックス
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日本の造船所には、いま約3.6年分の仕事があります。9月も17隻の輸出船を受注し、納期は2030年度まで埋まり始めました。ところが経済産業省は、10〜12月の造船向けの鋼材需要が前年より9.8%減ると見込んでいます。理由は、人手不足で船を造るペースが上がらないこと。注文はあるのに、造る人が足りない──。国が掲げる2035年の建造量倍増の前に立ちはだかる人手不足の壁を、国土交通省の統計と各社の動きから深読みします。

本記事は国土交通省海事局の資料、日本造船工業会の資料、経済産業省の鋼材需要見通し(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞)、日本海事新聞をもとに、今週のニュースを深掘りする解説記事です。

※本記事は2026年10月17日時点の公開情報に基づき作成しています。数値は各資料の公表時点のもので、筆者の解釈・推測には「見立て」と明示します。

📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)

📊 今週そろった2つの数字
  • 仕事の量──日本船舶輸出組合によると、9月の輸出船受注は17隻・51万総トン。9月末の手持ち工事量は633隻・2,991万総トンで、直近の年間竣工量で割ると約3.6年分(日本海事新聞10月16日付2面)
  • 造るペース──経済産業省の10〜12月の鋼材需要見通しで、造船向けの普通鋼鋼材は72.1万トン(前年同期比9.8%減、前期比4.4%減)(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月16日付1面)

日刊産業新聞によると、造船向けの鋼材が減る理由は、手持ち工事量は高い水準にあるものの、人手不足で建造のペースが上がらないためです。船は鋼板を切って溶接し、ブロックを組み上げてつくります。造船向けの鋼材需要は、造船所が実際にどれだけ船を造っているかを映す数字といえます。

造船向け普通鋼鋼材(国内消費)数量
2025年度10〜12月(実績)79.9万トン
2026年度7〜9月(実績見込み)75.4万トン
2026年度10〜12月(見通し)72.1万トン
出典:経済産業省の10〜12月期鋼材需要見通し(日刊鉄鋼新聞10月16日付1面の掲載表)

9月の竣工(通関実績)も18隻・74万総トンで、前年同月を6%下回りました(日本海事新聞10月16日付2面)。受注は積み上がる一方で、完成させるペースは上がっていないことが、鋼材と竣工の両方の数字から読み取れます(この段落の解釈は筆者の見立てです)。

国土交通省海事局がまとめた日本の造船業の就労者数(各年4月1日時点)を見ると、人手不足の実態がはっきりします。造船所本体の社員だけでなく、協力会社(下請け)の社員や外国人材も含めた数字です。

年(4月1日時点)就労者数(合計)うち外国人材を除く就労者うち外国人材
2016年(直近のピーク)9万1,264人8万4,331人6,933人
2019年8万5,812人7万7,466人8,346人
2022年(コロナ期)6万8,464人6万2,727人5,737人
2024年7万4,372人6万2,208人1万2,164人
2025年7万6,807人6万2,280人1万4,527人
出典:国土交通省海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)掲載の海事局調べ。外国人材は2015年から計上。「外国人材を除く就労者」は合計から外国人材を引いた当ブログの計算で、国交省資料ではこの層を日本人就労者として説明しています

就労者の合計は、2016年の約9.1万人から2025年は約7.7万人へ、9年で約1万4,500人(約16%)減りました。外国人材を除くと、約8.4万人から約6.2万人へ約2.2万人(約26%)の減少です(当ブログ計算)。国交省は、日本人就労者数は中期的に減少傾向が続いているとしています。日本造船工業会も、2026年3月の講演資料で、就労者数は2016年に9万人を超えていたが現在は7.6万人にまで減少したと説明しています。

注目したいのは、2022年を底に合計は増え始めているのに、外国人材を除く就労者は約6.2万人で横ばいのままという点です。増えた分のほとんどは、次の章で見る外国人材です(この段落の解釈は筆者の見立てです)。

外国人材(技能実習・特定活動・特定技能)は、2022年の5,737人から2025年には1万4,527人と約2.5倍に増えました。就労者全体に占める割合は、2016年の7.6%から2025年には18.9%に上がっています(国交省資料をもとに当ブログ計算)。造船業で働く人のおよそ5人に1人が外国人材という計算です。国交省も、コロナ期に落ち込んだ外国人材がここ数年再び増え、就労者数全体の減少には歯止めの兆しがあるとしています。

国の造船業再生ロードマップでも、人材の確保・育成は柱の一つです。日本人の技能者・技術者の育成と並んで、特定技能制度と育成就労制度による外国人材の受け入れが位置づけられています。技能実習に代わる育成就労制度は2027年4月に運用が始まる予定です(国交省「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」)。

⚠️ 外国人材だけでは埋まらない理由

外国人材が増えても、設計者や現場を束ねる熟練者はすぐには育ちません。国交省は、日本の建造量が伸び悩む主な要因の一つに設計や現場での人材不足の深刻化を挙げています。人の数だけでなく、経験とノウハウを持つ人をどう確保し、技術をどう伝えるかが問われています(前段は国交省資料、後段は筆者の見立てです)。

国は、2035年に日本の造船業の建造量を年1,800万総トンにする目標を掲げています。日本の船主が必要とする船の量を、国内で造れるようにするという考え方です。一方、国交省の資料によると、日本の建造量は2019年の1,600万総トンから2024年には900万総トンに減り、2024年時点の建造能力は907万総トンです。つまり約10年で建造量をほぼ2倍にする計画です。

📊 国の「建造能力倍増」の内訳
  • 約50%の建造能力向上──施設・設備の整備による建造能力の拡大(ドック・クレーンなど)
  • 約25%の生産性向上──DXやロボット・AI技術を使い、建造プロセス全体の生産性を上げる
  • 10%のコスト削減
  • 人材──大学・産業・地域の連携による高度人材の育成、雇用環境の改善、外国人技能者の受け入れなど

出典:国土交通省海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)

この内訳を見ると、国の計画は人を増やすだけで倍増を目指しているわけではないことが分かります。設備を増やし、ロボットやAIで1人あたりの生産量を上げ、そのうえで人材も確保する──3つを組み合わせる設計です。逆に言えば、設備を新しくしても、それを動かす人がいなければ能力は生かせません。今週の造船向け鋼材9.8%減という見通しは、その最初の警告とも読めます(この段落は筆者の見立てです)。国の計画の全体像は建造能力2倍・1,800万総トン計画の深読み解説で詳しく解説しています。

📐 1人あたりの建造量で見ると(当ブログの単純計算)
  • 2019年:建造量1,600万総トン ÷ 就労者8万5,812人 = 1人あたり約187総トン
  • 2024年:建造量900万総トン ÷ 就労者7万4,372人 = 1人あたり約121総トン(約35%減)

就労者の減少(約13%)よりも、建造量の減少(約44%)のほうがずっと大きいことが分かります。つまり建造量が減った理由は人手だけではありません。国交省は主な要因として、①中国・韓国に比べて事業所の規模が小さい、②鋼材・資材の高騰で船価が高く、厳しい競争の中で建造能力を縮小した、③設計や現場で人材不足が深刻化──の3つを挙げています。人手不足は、このうちこれから増産するときの最大の制約になるという位置づけです。

出典:国土交通省海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)。建造量は暦年、就労者は各年4月1日時点で、集計の基準が異なるため目安の計算です。最後の一文は筆者の見立てです

ここ数週間のニュースを並べると、造船・舶用各社の人手不足への対応は、大きく3つに分けられます。

打ち手会社・団体具体的な動き
人を集める・定着させる大島造船所新本館の建設計画、奨学金の返還を支援する「人材定着支援制度」、地域の交流拠点づくり(日本海事新聞10月7日付)
日本造船工業会建造設備だけでなく、寮や社宅、オフィスへの投資と福利厚生などの待遇改善が必要と提言(2026年3月の講演資料)
JMU2027年春の新卒入社予定者101人の内定式を呉で開催(日本海事新聞10月8日付)
人を育てる・技を伝える日本舶用工業会熟練技能者を「舶用マイスター」に認定し、今年度の34人で累計628人に。木下和彦会長は「人材の確保・育成が業界の喫緊の課題」と強調(日本海事新聞10月19日付)
大島造船所ベトナムの設計会社「DAIZO TEC」(170人)に、詳細設計に加えて一部の上流設計も任せる方針(日本海事新聞10月7日付)
人の仕事を減らす(自動化・AI)川崎重工業坂出工場に10年で約1,000億円を投資。目的は自動化・ロボット化、デジタルシップヤード化、建造能力の増加(日本海事新聞10月7日付)
JMU工程の制約や熟練者のノウハウを組み込んだAIエージェントを束ねる「AIブレーン」の構想を提示(日本海事新聞10月8日付)
出典:日本海事新聞(10月7日・8日・19日付)、日本造船工業会「造船業再生強化 ~建造能力倍増に向けて~」(2026年3月10日)

AI・ロボティクスのシンポジウム(10月6日)では、造船現場の技術者の長年の経験や判断を、どうデータ化・構造化するかが課題として示されました(日本海事新聞10月8日付)。熟練者の技をデータとして残し、少ない人数でも船を造れる仕組みをつくることが、人手不足への中長期の答えになりそうです(後段は筆者の見立てです)。

働く側から見れば、人手不足は採用の門が広く、待遇改善が進みやすい局面でもあります。当ブログの日本の造船会社ランキングでも整理しているとおり、主要各社は前期から賃上げを進めています。

💼 ぞうせんおじさんの一言

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  • 次回の経産省の鋼材需要見通し(2027年1〜3月期)──造船向けの減少が続くか、建造ペースが持ち直すか
  • 月次の竣工量(日本船舶輸出組合の通関実績)──受注の増加が、実際の完成量の増加につながっているか
  • 育成就労制度(2027年4月開始予定)への移行──外国人材の受け入れが途切れずに続くか
  • 各社の上期決算──人件費や外注費の増加、寮・社宅などへの投資がどう表れるか
  • 自動化投資の具体化──再生基金の対象案件で、ロボット・AIへの投資がどこまで進むか

■ 社内工・社外工
造船所の現場で働く技能者のうち、造船所本体に雇われている人を社内工、協力会社(下請け)に雇われている人を社外工と呼びます。国交省の就労者数の統計は、この両方を含めて集計しています。

■ 特定技能
人手不足の分野で、一定の技能と日本語能力を持つ外国人が働けるようにする在留資格。造船・舶用工業も対象分野の一つです。

■ 育成就労制度
これまでの技能実習制度に代わる新しい制度。外国人材を育成し、特定技能につなげることを目的としています。国交省の資料では2027年4月に運用開始の予定です。

■ 手持ち工事量(○年分)
造船所が受注していて、まだ引き渡していない船の量を、年間の竣工量で割った指標。約3.6年分なら、新しい注文を取らなくても約3年半は仕事が続く計算です。

  1. 仕事は約3.6年分あるのに、造船向け鋼材は9.8%減──理由は人手不足で建造ペースが上がらないこと
  2. 就労者は2016年の約9.1万人から約7.7万人へ──外国人材を除くと9年で約2.2万人減
  3. 外国人材は約1.45万人、全体の約19%──3年で約2.5倍に増え、減少の歯止め役に
  4. 国の倍増計画は設備・生産性・人材の組み合わせ──設備を増やしても動かす人がいなければ届かない(見立て)
  5. 各社は人を集める・育てる・減らすの3方向で対応──働く側にとっては採用と待遇改善の好機
💡 ぞうせんおじさんの一言

船の注文は数年先まで埋まっていても、最後に船を造るのは人です。造船業の成長は、人をどれだけ集め、育て、楽にできるかにかかっています。
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本記事の出典:国土交通省海事局船舶産業課「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月、日本の造船業の就労者数等の推移・造船業の現状と課題・ロードマップ)、日本造船工業会 檜垣幸人会長「造船業再生強化 ~建造能力倍増に向けて~」(2026年3月10日、第37回海事立国フォーラム)、経済産業省の10〜12月期鋼材需要見通し(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月16日付1面)、日本海事新聞(大島造船所の会見・川崎重工の坂出工場投資〔10月7日付〕、AI・ロボティクスシンポジウム・JMUの内定式〔10月8日付〕、日本船舶輸出組合の9月実績〔10月16日付〕、舶用マイスター〔10月19日付〕)。いずれも原本・紙面を直接確認。増減・割合は当ブログの計算です。

⚠️ 注意点

本記事は公開情報に基づく解説であり、特定企業への投資勧誘や就職・転職の推奨を目的としたものではありません。「深読み」の解釈・将来予想には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は各社・各省庁の公式発表をご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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