「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな造船・舶用業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。
本記事は2026年7月25日時点の公開情報(日本海事新聞、今治造船・荏原製作所の公式発表など)をもとに、今週(7月21日〜24日)のトピックスを凝縮しました。今週の主役は今治造船・檜垣社長の定例会見──LNG船再開の「韓国協業」への言及と、売上6,000億円の大台超えが一度に飛び出しました。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は2026年7月25日時点の公開情報に基づきます。数値・内容は公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 檜垣社長、LNG船再開へ「韓国との協業」に言及──複数社と前向きに検討
- 2. 今治造船、売上6,005億円で初の6,000億円台──JMU合算で1兆円規模に
- 3. 上半期の輸出船受注は500万総トン──手持ちは3.6年分、バルカーが牽引
- 4. 荏原製作所、液化水素運搬船用ポンプで世界初の型式承認
- 5. その他、今週の小ネタ
- 6. 先読み──改正経済安保法で「船舶修繕」が支援対象になる?
- 7. 今週の用語解説──ニュースを読み解くキーワード
- まとめ──今週の3行サマリ
1. 檜垣社長、LNG船再開へ「韓国との協業」に言及──複数社と前向きに検討
このシリーズで追いかけてきた「LNG運搬船の国内建造再開」に、当事者のトップが踏み込みました。今治造船の檜垣幸人社長は7月23日の定例記者会見で、LNG船の建造再開について「複数の造船会社と前向きに検討している」と表明。一方で「いつ、どこで建造するかなどは何も決まっていない」とも語りました(日本海事新聞 7月24日付1面)。
注目は韓国への言及です。檜垣社長は、過去に防熱用パネルを韓国から購入した経験を紹介したうえで、「サプライチェーンを考えると韓国と協業ができればと思っている。検討の話題に入れている」と発言。仏GTTのライセンスで韓国造船が建造するメンブレン方式に加え、「韓国独自のメンブレン方式もある」とも説明しました。7月上旬に報じられた「同志国連携」(韓国・フランス想定)の構図が、トップの口から具体的に裏づけられた形です。
もう一つ重要な事実も明かされました。今治造船とJMUの営業・設計合弁「日本シップヤード(NSY)」は発足時(2021年)に「LNG運搬船を除く」という条件がありましたが、檜垣社長によるとJMUへの出資を60%に引き上げた際にこの条項はなくなったとのこと。今治は2018年を最後にメンブレン方式LNG船を建造した実績もあり、「今治・JMU連合でLNG船を扱える体制」が静かに整っています。背景の全体像は深読み解説|LNG船の国内建造再開はなぜ韓国・フランス頼み?をどうぞ。
伏線はもう一つあります。今治造船と三菱重工業は2013年4月、LNG船の販売・設計を手掛ける合弁会社「MI LNGカンパニー」(現MILES)を設立しており、今治にはLNG船の設計・営業の「器」がもともと存在します。2018年までの建造実績(メンブレン方式)、MILESの設計知見、そして韓国からの資機材調達──パーツを並べると、「複数の造船会社と前向きに検討」という言葉の解像度がぐっと上がります。
📌 ここはチェック
「複数の造船会社と前向きに検討」という言葉は、LNG船再開が「政策の構想」から「企業の商談」の段階に入りつつあるサイン。8月末の概算要求(国の支援策)と合わせて、夏以降の最重要ウォッチ項目です。
2. 今治造船、売上6,005億円で初の6,000億円台──JMU合算で1兆円規模に
同じ会見で、今治造船の2025年度業績が発表されました。売上高は前年度比29%増の6,005億円と、初めて6,000億円の大台を突破(今治造船公式・会見概要、愛媛新聞)。檜垣社長は「大型コンテナ船の竣工が始まったことに加え、円安にも恵まれて6000億円の大台を超えることができた」と説明し、資機材高や人件費高騰があるなかでも「昨年並みの利益を確保することができた」と語りました(日本海事新聞 7月24日付)。
- 売上高6,005億円(前年度4,646億円から29%増・初の6,000億円台)
- 竣工68隻・376万総トン──内訳はバルカー45隻・コンテナ船11隻・自動車運搬船6隻・プロダクト船3隻・RORO船3隻
- 受注81隻・406万総トン(NSY経由)で手持ち工事量は約4年分を維持。JMUも21隻・183万総トンを受注
- 海事プレスによると、JMUと合わせたグループ売上は1兆円規模に。設備投資は10年で1,000億円超の計画と報じられています
非上場ゆえ決算短信はありませんが、年1回の定例会見が「今治の通信簿」です。JMU子会社化初年度で売上1兆円規模の造船グループが名実ともに完成──1月の子会社化から続く大きな物語が、数字で裏づけられました。経緯は今治造船 2026年上期まとめ、「今治の株は買えるの?」という疑問には今治造船の株は買える?で答えています。
3. 上半期の輸出船受注は500万総トン──手持ちは3.6年分、バルカーが牽引
日本船舶輸出組合が7月14日に発表した2026年上半期(1〜6月)の輸出船契約実績は500万総トン・前年同期比0.3%減とほぼ横ばいでした(日本海事新聞 7月15日付1面)。受注隻数はむしろ17隻増の111隻で、バルカーが21隻増の97隻と圧倒的。用船料の堅調さや「これ以上船価は下がらない」という船主の判断に加え、NOx規制改正を前にした「駆け込み発注」(旧ルールのエンジン搭載船は今年春ごろまでに売り切った模様)が上半期を下支えしました。
6月末の手持ち工事量は3,009万総トン(628隻)で約3.6年分。納期別では2029年度が49%、2030年度が32%と、受注の中心はすでに「3〜4年先」の船です。急いで安値受注する必要のない、造船所優位の状況が数字からも読み取れます。
6月単月では、契約実績が前年同月比4%増の141万総トン・36隻(13隻増)。内訳はハンディマックスバルカー18隻・ケープサイズ4隻・パナマックス3隻・ハンディサイズ9隻・一般貨物船2隻で、ここでもバルカー一色でした。契約は全て現金払いで、外貨建てが92%・円建てが8%。円安メリットを受けやすい外貨建て中心の受注構造も、いまの日本造船の収益を支える裏方です。
4. 荏原製作所、液化水素運搬船用ポンプで世界初の型式承認
水素サプライチェーンの「部品」が一歩前進しました。荏原製作所は7月22日、液化水素運搬船用カーゴポンプで日本海事協会(NK)の型式承認を取得(6月16日付)したと発表。同社によると液化水素運搬船用カーゴポンプの型式承認は世界初です(日本海事新聞 7月24日付2面)。沸点マイナス253度という極低温の液化水素を、安全に昇圧・移送するためのポンプです。
思い出したいのは、川崎重工が坂出工場で進める大型液化水素運搬船の建造体制強化(1,937億円調達の柱)。船体は川重、荷役ポンプは荏原──と、液化水素を「運ぶ」ための国産機器が着々と揃い始めています。船の脱炭素の主導権争いで、日本は水素の要素技術に強みを積み上げている構図です。
5. その他、今週の小ネタ
- 内海造船・瀬戸田工場で旅客船兼自動車航送船「トロリウス宗谷」が進水(日本海事新聞 7月24日付)──瀬戸田は一般の進水式見学を歓迎している造船所。「巨大な船が海に浮かぶ瞬間」を見てみたい方は進水式の見学ガイドをどうぞ
- 古野電気の3〜5月期は経常利益62%増の63億円──売上高は22%増の381億円(うち舶用事業18%増の325億円)、営業利益65%増・純利益38%増と絶好調。中国の新造船向け販売や保守サービス需要が伸びました。通期予想は据え置きです(同 7月14日付2面)。舶用機器の決算第1号から、造船ブームの恩恵が数字で確認できます
- HD現代三湖がVLAC(大型アンモニア運搬船)3隻を受注、1隻約1億2,090万ドルと報道(同 7月中旬付)──アンモニア船の商談は韓国でも活発です
6. 先読み──改正経済安保法で「船舶修繕」が支援対象になる?
週明けの紙面から、先取りしておきたい論点を一つ(日本海事新聞 電子版・7月27日付先行公開)。6月10日に成立した改正経済安全保障推進法・JBIC法により、「特定重要物資」の供給に「不可欠な役務」が支援対象に加わりました。海事分野では船体・舶用エンジン・プロペラ・ソナーなどの「船舶部品」がすでに特定重要物資に指定されており、今後の手続き次第で「船舶修繕」が不可欠な役務に追加され、低利融資(ツーステップローン)などの支援が可能になる可能性があると報じられています。
海事局も「成長戦略で船舶修繕を含めた『造船』の強化が打ち出されており、可能性としてはあり得る」とコメント。新造船(建造能力2倍)だけでなく、艦船や商船を直す「修繕」も経済安全保障の文脈に乗り始めた──夏の概算要求と並ぶ、政策ウォッチの新しい注目点です。
7. 今週の用語解説──ニュースを読み解くキーワード
手持ち工事量とは
造船所がすでに受注済みで、これから建造する船の総量。年間の建造量と比べて「何年分の仕事があるか」で表現され、現在の日本は約3.6年分。この数字が大きいほど、造船所は納期や価格の交渉で強気に出られます。
NOxテクニカルコード改正とは
IMO(国際海事機関)が2025年4月のMEPC83で採択した、船のエンジンの窒素酸化物(NOx)放出量の確認方法を厳しくするルール改正。2028年以降に証書が発行されるエンジンが対象になるため、「旧ルールのうちに発注したい」という駆け込みが起き、日本の造船所の受注を押し上げました。
型式承認とは
船級協会(日本ではNKなど)が、その機器の設計・性能が規則に適合していると「型」ごと認める制度。一度取得すれば同型品を船に載せやすくなるため、舶用機器の商売では「参入チケット」のような意味を持ちます。荏原の世界初取得は、液化水素船ビジネスの入場券を最初に手にしたことを意味します。
特定重要物資とは
経済安全保障推進法が定める、国民生活や経済活動に不可欠で、供給が途絶えると影響が大きい物資。現在16種類が指定され、海事関連では「船舶部品」(2ストローク・4ストロークエンジン、プロペラ、ソナー、船体など)が該当します。指定されると、安定供給に取り組む民間企業を国が支援できるようになります。
VLACとは
Very Large Ammonia Carrierの略で、大型のアンモニア運搬船のこと。燃料や肥料原料として需要拡大が見込まれるアンモニアを運ぶ専用船で、LPG船(VLGC)の技術をベースに各国で建造が活発化しています。日本勢では川崎重工がJERA向け輸送船を受注するなど、商談の主戦場の一つです。
まとめ──今週の3行サマリ
- 檜垣社長がLNG船再開で「韓国協業」に言及──「複数の造船会社と前向きに検討」。NSYの「LNG除く」条項消滅も判明し、商談段階へ前進
- 今治造船は売上6,005億円で初の6,000億円台──JMU合算で1兆円規模。手持ち4年分・設備投資10年1,000億円超の計画も
- 上半期受注500万総トン・手持ち3.6年分──バルカー主導で前年並みを確保。荏原の世界初・液化水素ポンプ型式承認など水素の要素技術も前進
👀 来週以降の注目──①川崎重工・三菱重工など重工大手の4〜6月期決算(7月末〜8月頭に発表が集中する見込み)、②LNG船再開プロジェクトの続報(メンバー・場所・時期)、③船舶修繕の「不可欠な役務」追加に向けた取組方針の改定(本文6.参照)の続報。
「同志国連携」という政策の言葉が、檜垣社長の「韓国と協業ができれば」という生の言葉に変わった1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:日本海事新聞 電子版(2026年7月15日〜24日付:檜垣社長会見〔7月24日付1面〕/輸組上半期まとめ〔7月15日付1面〕/荏原製作所 型式承認〔7月24日付2面〕/トロリウス宗谷進水〔7月24日付〕ほか)、今治造船 公式サイト「2026年 定例記者会見の概要」(7月23日会見)、愛媛新聞(初の6,000億円超え)、海事プレス(JMU合算1兆円規模・設備投資10年1,000億円超)、荏原製作所 7月22日付発表、古野電気 7月10日発表の2026年3〜5月期決算(日本海事新聞 7月14日付2面)、改正経済安保法と船舶修繕(同 電子版7月27日付・7月25日閲覧)。本記事は執筆時点の公開情報に基づきます。詳細は各公式発表をご確認ください。
⚠️ 注意点
本記事は業界動向の情報整理を目的としたものであり、特定企業への投資や取引を推奨するものではありません。記載の数値は公表時点のものです。


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