今週(2026年9月14日〜18日)の鉄鋼業界は、「値上げの第2波と、海外への大勝負が重なった週」でした。日本製鉄はスロバキアで1,620億円の電炉新設を決断。国内ではJFEスチールが全品種トン1万円の追加値上げを打ち出し、東京製鉄も3カ月ぶりに薄板を値上げ。世界の鉄鋼AD(アンチダンピング)調査は今年30件を超える勢いで、台湾CSCの対日オファー値上げなど「安い輸入材」も消えつつあります。今週の要点だけをサクッと押さえたい方は、この記事1本でOKです。
各トピックは「何が起きたか」→「なぜ重要か」の順で、業界初心者の方にも分かるように解説します。
※本記事は鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年9月14日〜18日付各紙面、日本海事新聞 電子版ほか、公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。
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- 1. 日本製鉄、スロバキアで電炉新設──1,620億円投資・年産160万トン
- 2. JFEスチール、全品種トン1万円の追加値上げ──年累計2.5万円に
- 3. 東京製鉄、3カ月ぶり値上げ──薄板3,000円・厚板2,000円、条鋼は据え置き
- 4. 世界のAD調査は30件超の勢い──台湾CSCは対日値上げ、輸入材の「安さ」が消える
- 5. 今週の短信──宝鋼も3カ月連続値上げ、鈴木商会の新鋭シュレッダーほか
- 6. 今回の用語解説
- 7. まとめ
1. 日本製鉄、スロバキアで電炉新設──1,620億円投資・年産160万トン
【何が起きた?】日本製鉄は9月16日、欧州・スロバキアの事業会社USスチール・コシツェ(10月1日付で「ニッポン・スチール・スロバキア」、略称NSSKへ改称予定)に約9億ユーロ(1,620億円)を投資し、電気炉と酸素プラントを新設すると発表しました。電炉の年産能力は160万トンで、2030年に稼働する予定です。現地時間15日にはスロバキア政府と補助金契約を締結し、EU近代化基金から3億5,000万ユーロ(630億円)の支援を受給。10月には日鉄の宮本勝弘特任顧問がNSSKのCEO兼社長に就任し、現地に常駐します(鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月17日付1面)。概要を整理するとこうなります。
| 投資額 | 約9億ユーロ(1,620億円) |
| 新設するもの | 電気炉(年産能力160万トン)+酸素プラント |
| 稼働開始 | 2030年予定 |
| 公的支援 | EU近代化基金から3億5,000万ユーロ(630億円) |
| 新社名 | ニッポン・スチール・スロバキア(NSSK)=10月1日付で改称 |
| トップ | 宮本勝弘氏がCEO兼社長に就任し現地常駐(10月) |
受け皿となるUSSKは東欧最大の鉄鋼メーカーで、粗鋼生産能力は年間450万トン(2025年の粗鋼生産量実績は332万トン)。既存の高炉3基と組み合わせた生産体制を構築し、高品質鋼材の安定供給とCO2排出削減の両立を狙います(日刊産業新聞9月17日付1面)。
【なぜ重要?】USスチール買収で手に入れた欧州拠点コシツェでの、買収後初の大型脱炭素投資です。コシツェではかねて電炉新設の構想がありましたが、カギだった現地政府支援(630億円)を獲得したことで投資決定に至りました。「2030中長期経営計画」で欧州を海外重点地域と位置づける日鉄にとって、高炉の製鉄所を電炉へ転換していく世界戦略のショーケースになります。日本製鉄の株式投資ガイドで解説した「グローバル製鉄」の絵が、また一歩実物になりました。
2. JFEスチール、全品種トン1万円の追加値上げ──年累計2.5万円に
【何が起きた?】JFEスチールは9月17日、10月商談から鋼材販売価格を全品種でトン1万円引き上げると発表しました。バンカーオイルや合金・資材など諸物価の高騰と原料炭価格の上昇を受けたもので、店売り・ヒモ付きとも対象、国内向けのみならず海外向け(輸出)も含みます。今年度は上期に2回に分けて計1万5,000円を打ち出しており、下期の1万円と合わせ年間で累計2万5,000円の値上げとなります。同社は「収益が大変厳しい状況」とし、取引先に丁寧に説明して「できれば年内には完遂したい」考え。渡辺大樹営業総括部長は「12月までに完全浸透目指す」とし、顧客との価格フォーミュラなど従来からの商談の連続性は考慮する方針です。生産面では粗鋼ベースでフル生産を続けています(鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月18日付1面)。
コスト側の圧力も具体的です。原料炭は、中国・山西省の炭鉱事故などの影響で豪州強粘結炭のスポット相場が一時トン267ドル程度と約2年半ぶりの水準に高騰。8月にも中国で炭鉱事故が起きて供給不安が広がりました(日刊産業新聞9月18日付1面)。
【なぜ重要?】先々週の神戸製鋼(今春以降の累計2万円以上)に続き、高炉大手の「下期第2波」が出揃い始めました。年2万5,000円という上げ幅は、需要が伸びない中でも「量より価格」で収益を守る高炉の意思表示です。値上げの成否は12月までの浸透度合いで判定される──市況価格の深読み解説で扱った「表明と浸透のギャップ」が、今期後半の最大の見どころになります。
3. 東京製鉄、3カ月ぶり値上げ──薄板3,000円・厚板2,000円、条鋼は据え置き
【何が起きた?】電炉最大手の東京製鉄は9月14日、10月契約の鋼材販売価格で薄板類をトン3,000円、厚板を2,000円引き上げると発表しました。値上げは3カ月ぶりで、国際相場の上昇によるコスト転嫁が理由。一方でH形鋼や異形棒鋼などの条鋼類は据え置きとしました。値上げ後の主な販売価格は次のとおりです(鉄鋼新聞9月15日付1面)。
| 品種(10月契約) | 価格(トン) | 前月比 |
|---|---|---|
| 熱延鋼板 | 11万円 | +3,000円 |
| ホットコイル | 10万5,000円 | +3,000円 |
| 厚板 | 11万1,000円 | +2,000円 |
| H形鋼(中幅) | 12万6,000円 | 据え置き |
| 異形棒鋼 | 9万4,000円 | 据え置き |
【なぜ重要?】毎月の価格公表で市況の「風見鶏」となる東鉄が、夏の様子見を終えて薄板から値上げを再開しました。品種で対応を分けたのがポイントで、輸出市況や海外ホットコイルの上昇を映せる薄板類は上げ、建設需要の低迷が続く条鋼類は慎重に──という「二速経営」。高炉の大口値上げ(セクション2)と電炉の店売り値上げが同時に走ることで、下期の鋼材価格は川上から川下まで一斉に持ち上げる形になってきました。
4. 世界のAD調査は30件超の勢い──台湾CSCは対日値上げ、輸入材の「安さ」が消える
【何が起きた?】世界で鉄鋼製品を対象にした新規AD(アンチダンピング)調査が今年30件を超える勢いです。日本鉄鋼連盟の調べでは9月初旬時点で23件と、過去最高だった2024年の41件、昨年の31件に迫るペース。2022〜23年は年間4〜5件にとどまっていましたが、中国の鋼材輸出が1億トンを超えて以降、行き場を失った鋼材が自国へ流入する懸念から各国が一斉に防壁を築いています。今年はメキシコが厚板、EUが方向性電磁鋼板、南アフリカが冷延鋼板、ロシアなど5カ国のユーラシア経済委員会がブリキで調査を開始。AD以外でも、米国の通商拡大法232条や、EUが7月からセーフガード(SG)に代わって鋼材26品目で発動した後継措置など、関税の壁は積み上がる一方です。日本も熱延鋼板と方向性電磁鋼板(GO)で調査を開始した「多案件・同時対応」の異例な状況です(鉄鋼新聞9月14日付1面)。この波は価格にも及び始めました。台湾・中国鋼鉄(CSC)は11月〜来年1月積みの日本向けオファーで熱延・冷延コイルをトン3,000円、厚板を5,000円以上値上げ。8月8日から日本が韓国・中国産GI(溶融亜鉛めっき鋼板)に暫定AD関税を課したことで、課税対象外の台湾材に引き合いが集まっているためで、GIの上げ幅は熱延・冷延を大きく上回る見込みです(9月16日付1面)。
【なぜ重要?】国内の値上げ(セクション2・3)の足を引っ張ってきたのが安値輸入材でしたが、AD関税と供給元の値上げで「輸入の安さ」そのものが細りつつあります。保護主義の連鎖は輸出企業の日本にとって逆風の面もある一方、国内市場では値上げ浸透の追い風。通商措置が国内価格を下支えするという構図は、これからの鋼材価格を読むうえで欠かせない視点になりました。
5. 今週の短信──宝鋼も3カ月連続値上げ、鈴木商会の新鋭シュレッダーほか
- 中国・宝鋼の10月国内販価は3カ月連続の値上げ──熱延コイルなどでトン約4,600円相当の引き上げ(9月14日付)
- 関東の構造用丸棒(SC材)市況が1万5,000円上伸──メーカー値上げが浸透し、来月中には完全浸透へ(9月14日付)
- 今年度の国内鋼材消費は4,800万〜4,900万トン程度でほぼ横ばいの見通し──ただ車・船・機械向けは堅調で、実需増加により鋼材価格の先高観が強まっているとの見方も(9月17日付1面)
- 鉄鋼協会、人材育成事業の対象を「現業系技能者」向け研修に拡大──尼崎の鉄鋼短期大学を核に、鉄鋼学園から引き継ぎ(9月14日付)
- 道内鉄リサイクル大手の鈴木商会、石狩湾新港に新拠点──過去最大の設備投資で新大型シュレッダーを導入、2028年夏完成へ(9月16日付)
- 神戸製鋼所、川崎重工が建造する世界最大の液化水素運搬船向けに圧縮機を供給──タンクから発生するボイルオフガスを昇圧し発電燃料に活用(9月15日発表・今週の造船必修ニュース参照)
- 米欧のホットコイル市況も一段高──米国では鋼材市況が上昇基調、欧州はアルセロール・ミッタルが11月積み熱延コイル販価を引き上げ(9月14日・16日付)
- 日本製鉄、店売り向けH形鋼の9月契約は販価据え置き──生産の50%抑制を継続し、物件向け重視の方針を維持(9月17日発表・18日付)
- 8月の全鉄鋼輸出は245万7,000トン──前年同月比0.5%増と2カ月ぶりに前年を上回るも、前月比では2カ月連続減(財務省貿易統計・17日付)
- 大同特殊鋼、半導体製造装置向けの新しいニッケル基合金を開発──耐ガス腐食性と被削性を両立(9月17日発表・18日付)
6. 今回の用語解説
■ AD(アンチダンピング)関税
輸出国が自国での販売価格より不当に安い価格で輸出(ダンピング)し、輸入国の産業に被害を与えていると認められた場合に、通常の関税に上乗せして課される特別な関税。調査開始から最終決定までの間に暫定的に課す「暫定関税」もあります。日本が鉄鋼製品でAD措置を積極的に使うのは近年珍しい動きです。
■ EU近代化基金
EUの排出量取引制度(EU-ETS)の収入を原資に、所得水準が相対的に低い加盟国のエネルギー転換・脱炭素投資を支援する基金。今回のスロバキア電炉には、この基金から3億5,000万ユーロが投じられます。「脱炭素のための設備投資に公的資金を入れる」流れは、日本のGX支援とも共通する世界的な潮流です。
■ GI(溶融亜鉛めっき鋼板)
溶かした亜鉛の槽に鋼板をくぐらせ、さび止めのめっきを施した鋼板。建材や家電などに幅広く使われます。輸入材のシェアが大きい品種のため、今回のAD関税の影響が最も出やすい主戦場になっています。
7. まとめ
- 日本製鉄がスロバキアで電炉新設を決定──1,620億円・年産160万トン・2030年稼働。EU基金から630億円支援
- JFEが全品種トン1万円の追加値上げ──年累計2.5万円、12月までに完全浸透目指す
- 東京製鉄は3カ月ぶり値上げ──薄板3,000円・厚板2,000円、条鋼据え置きの「二速対応」
- 世界のAD調査は30件超の勢い──日本も熱延・GOで調査開始。台湾CSCの対日値上げで輸入材の安さが細る
- 値上げ・通商・海外投資が同時進行──下期の鋼材価格は「川上から川下まで一斉底上げ」の構図に
国内は値上げ、海外は大型投資、通商はADの応酬──鉄鋼業界は「守り」と「攻め」が同時に動く面白い局面です。変化の速い業界だからこそ、情報のアップデートが働く人の武器になります。
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本記事の出典:鉄鋼新聞・日刊産業新聞(2026年9月14日〜18日付各紙面:世界の新規AD案件・鉄鋼協会人材育成・宝鋼値上げ・SC材市況〔9月14日付〕、東京製鉄10月販価〔9月15日付1面〕、台湾CSC対日値上げ・鈴木商会新拠点〔9月16日付1面〕、日本製鉄スロバキア電炉・鋼材価格先高観〔9月17日付1面〕、JFEスチール追加値上げ〔9月18日付1面〕)、日本海事新聞 電子版(神戸製鋼の圧縮機供給・9月16日付)。数値は各記事の公表時点のものです。
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