今週(2026年9月21日〜25日)の鉄鋼業界は、5連休明けの2営業日ながら「値上げが川下まで届き始めた週」でした。関東の鉄スクラップは約4カ月ぶりに反発し、薄板の店売り市場では酸洗鋼板が年度初めからトン1万円上昇。大同特殊鋼は工具鋼を4万円以上値上げします。海外では欧州委員会が方向性電磁鋼板(GO)にセーフガードの暫定措置を発動し、日本材には一定の配慮も。今週の要点だけをサクッと押さえたい方は、この記事1本でOKです。
各トピックは「何が起きたか」→「なぜ重要か」の順で、業界初心者の方にも分かるように解説します。
※本記事は鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年9月24日・25日付各紙面ほか、公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。
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- 1. 欧州委、方向性電磁鋼板にセーフガード暫定措置──「最低輸入価格」と無税枠、日本材に配慮も
- 2. 鉄スクラップ、約4カ月ぶりに反発──東京製鉄の500円上げに各社追随
- 3. 薄板の店売りで価格転嫁が本格化──酸洗鋼板は年度初めから約1万円上昇
- 4. 大同特殊鋼、工具鋼を10月契約から4万円以上値上げ
- 5. 8月の粗鋼生産は666万トン──5カ月連続増でも「依然低水準」
- 6. 今週の短信──ステンレス流通の「隠れコスト」、鉄源協の大型船輸出ほか
- 7. 今回の用語解説
- 8. まとめ
1. 欧州委、方向性電磁鋼板にセーフガード暫定措置──「最低輸入価格」と無税枠、日本材に配慮も
【何が起きた?】欧州委員会は、方向性電磁鋼板(GO)およびGOの鉄心(コア)に対するセーフガード(SG=緊急輸入制限)調査の結果、9月25日から暫定措置を発動すると発表しました(公示は18日付、期限は155日間で来年2月26日まで)。仕組みは「最低輸入価格制」と「無税割当(TRQ)」の組み合わせで、GOのグレード(鉄損値)ごとに最低輸入価格を設定し、輸入価格がそれを下回ると差額を暫定SG税として課します。一定の数量枠内であれば無税です(鉄鋼新聞9月25日付1面)。
| GOのグレード(鉄損値) | 最低輸入価格(CIF) |
|---|---|
| 0.7ワット/キロ未満(高級品) | トン当たり3,400ユーロ |
| 0.7〜0.9ワット(ミドルレンジ品) | 3,100ユーロ |
| 0.9ワット超(一般グレード品) | 2,800ユーロ |
※鉄鋼新聞9月25日付より。鉄損値が小さいほど高性能(変圧器のエネルギーロスが少ない)なGOです。
| GOの無税割当(TRQ・来年2月26日まで) | 数量枠 |
|---|---|
| 中国 | 約3万6,930トン |
| 日本 | 約2万3,100トン |
| 韓国 | 約4,700トン |
| その他 | 約5,360トン |
※鉄鋼新聞9月25日付より。なおEUは2015年から、日本・韓国・中国・米国・ロシアからのGOにアンチダンピング(AD)措置も課しています(同紙)。
【なぜ重要?】欧州委の調査によれば、EU域内のGO輸入に占める中国のシェアは20%から53%へと急拡大した一方、日本は25%から20%、韓国は9%から4%に低下していました。そのうえで欧州委は「日本と韓国から高品質なGO輸入を継続できるようにする」としており、高級品ほど最低価格を高く設定し、グレードで差を付けたのはそのための設計です。つまりこの措置は、安価な中国材の流入を止めつつ、日本の高級GOの通り道は残す「選別型」の防壁。日本の無税枠(約2万3,100トン)は、輸入シェアで2.6倍以上の中国の枠(約3万6,930トン)の約6割に設定されています(当ブログ計算)。先週お伝えした世界のAD調査30件超の潮流(先週の必修ニュース)の中で、「品質で選ばれる日本材」には一定の居場所があることを示した事例と言えます(後段は筆者の見立てです)。
2. 鉄スクラップ、約4カ月ぶりに反発──東京製鉄の500円上げに各社追随
【何が起きた?】国内の鉄スクラップ相場が9月19日から24日にかけて、5月中旬以来およそ4カ月ぶりに小幅反発しました。東南アジアなどの鋼材の秋需を背景に日本への鉄スクラップの引き合いが8月下旬から徐々に強まり、輸出価格が上昇して国内も連れ高に。電炉大手の東京製鉄が19日に全拠点の鉄スクラップ買値をトン当たり500円引き上げ、他の電炉メーカーや輸出業者も連休明けの24日までにおおむね追随しました。産業新聞調べの日本鉄スクラップ総合価格(東名阪3地区の電炉メーカー購入価格平均・H2)は、24日時点でトン当たり4万8,700円と前営業日から500円(1.0%)上昇しています(日刊産業新聞9月25日付1面。連休前の18日調べは4万8,200円)。
【なぜ重要?】先々週お伝えした関東鉄源協同組合の輸出入札は4カ月連続の下落(9月契約はトン4万8,113円、既報)でしたが、その後海外の買い意欲が上回り、流れが反転した形です。スクラップは電炉メーカーの最大の原料コスト。上昇に転じたことで、電炉各社には製品値上げ(鉄筋・形鋼など)を進める理由が一つ増えました。一方で国内の建設需要は弱く、市中の母材発生も低迷しており、「コスト高なのに需要は伸びない」電炉の板挟みは続きそうです(この段落は筆者の見立てを含みます)。
3. 薄板の店売りで価格転嫁が本格化──酸洗鋼板は年度初めから約1万円上昇
【何が起きた?】薄板市況で、流通段階の価格転嫁が本格化しています。鉄鋼メーカーによる相次ぐ値上げ表明を受け、流通各社が唱え引き上げを強化。熱延の酸洗鋼板は東西の店売り市場で年度初めからトン1万円弱の値上がりが浸透し、実行販売価格の切り上がりが鮮明になりました。店売り市場は需要家の購買姿勢は依然として当用買いが中心ですが、盆明け以降は値上げ受容の動きが広がり、足元では一部品種でデリバリー遅れも発生して需給はタイト化の方向です(鉄鋼新聞9月24日付1面)。
【なぜ重要?】背景にはメーカーの強固な値上げ姿勢があります。JFEスチールは10月商談から全品種トン1万円の追加値上げで累計2万5,000円、神戸製鋼所も累計2万円超となり、東京製鉄も10月に鋼板類を3,000円引き上げて累計の値上げ幅は1万7,000円に達しています(同紙より)。主なメーカーの値上げ状況を整理するとこうなります。
| メーカー | 直近の値上げ | 今年度の累計 |
|---|---|---|
| JFEスチール | 10月商談から全品種トン1万円 | 2万5,000円 |
| 神戸製鋼所 | 10月出荷分から全鋼材5,000円以上 | 2万円超 |
| 東京製鉄 | 10月契約で鋼板類3,000円(厚板2,000円) | 1万7,000円 |
| 大同特殊鋼(工具鋼) | 10月契約から4万円以上 | 4月契約の3〜10%に上乗せ |
※鉄鋼新聞9月24日・25日付、当ブログ既報より。これまで「表明」だった値上げが、流通の店頭価格として実際に通り始めたことが今週の変化。高炉の下期値上げが12月までに浸透するかを占う、最初の手応えです。
4. 大同特殊鋼、工具鋼を10月契約から4万円以上値上げ
【何が起きた?】大同特殊鋼は、工具鋼製品について国内向け・輸出向けとも全ての顧客を対象に、10月契約分からトン当たり4万円以上のベース値上げを実施します。工具鋼は量産特殊鋼に比べ製造コストが高く、エネルギー費・副資材費の上昇が採算に与える影響が大きいことが理由。同社は4月契約から3〜10%のベース値上げを打ち出していましたが、エネルギー・副資材などのコストが想定を超えて悪化し、今後もさらなる悪化が続くとして追加の値上げに踏み切りました(鉄鋼新聞9月25日付1面)。
【なぜ重要?】工具鋼は金型や刃物に使われる高付加価値の特殊鋼です。同社によると、工具鋼の内需は自動車のプラットフォーム共通化に伴う金型需要の縮減などの構造要因もあり、直近ピークの2018年実績に対し約4割減の水準。需要が細る中での大幅値上げは、「量が減っても価格で採算を守る」という鉄鋼業界全体の方向性を、特殊鋼でも鮮明にした動きです。同社は「工具鋼のサプライチェーン全体で適正なコスト転嫁を実現することが最重要課題」と捉えています。
5. 8月の粗鋼生産は666万トン──5カ月連続増でも「依然低水準」
【何が起きた?】日本鉄鋼連盟が9月24日発表した8月の国内粗鋼生産量は、前年同月比0.4%増の666万4,000トンとなり、5カ月連続で前年同月を上回りました。ただ1日当たりの生産量は7月比約4%減の21万5,000トンで、年率換算では7,800万トン台と低水準。鋼種別では普通鋼が513万7,000トン(前年同月比0.2%増)、特殊鋼が152万7,000トン(同1.3%増)といずれも小幅な増加でした(鉄鋼新聞9月25日付1面)。
【なぜ重要?】「5カ月連続増」と聞くと回復に見えますが、中身は前年の落ち込みからの小幅な戻りにすぎません。年率7,800万トン台という水準は、かつて1億トンを超えていた日本の粗鋼生産から見ると大きく縮んだまま。数量が伸びない中で値上げを重ねる──セクション3・4の価格転嫁の動きと表裏一体の数字です(この段落は筆者の見立てです)。
6. 今週の短信──ステンレス流通の「隠れコスト」、鉄源協の大型船輸出ほか
- ステンレス薄板市場で「流通コスト」の転嫁が進展──物流費・諸資材・労務費の上昇で加工流通は”利幅確保”が難しく、取適法(中小受託取引適正化法)なども背景にユーザーとの交渉に臨む(鉄鋼新聞9月24日付1面)
- 特殊鋼棒線、転嫁が急務に──資材価格などのコスト上昇が続き、サプライチェーン全体で負担(日刊産業新聞9月24日付1面)
- 関東鉄源協同組合の南光司理事長が総会で決意表明──1回当たり2万5,000〜3万トンを大型船で輸出する考えを示し、商社に「トルコ向け志向を」と呼びかけ(鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月25日付)
- 東南アジア鉄鋼協会のヨウ事務局長、域内需要は2026年に初の9,000万トンへ──「過剰能力なし、問題は輸入材」との見方(鉄鋼新聞9月25日付)
- 根津鋼材、甲府事業所のスリッターラインの電気設備を全面更新──基幹システム導入で加工体制を最適化(鉄鋼新聞9月24日付)
7. 今回の用語解説
■ 方向性電磁鋼板(GO)
結晶の向きを一方向にそろえ、特定の方向に磁気を通しやすくした特殊な鋼板。変圧器の鉄心に使われ、品質の良いGOほど電力のロス(鉄損)が少なくなります。電力網の増強や再エネの拡大で需要が伸びる一方、製造できるメーカーは世界でも限られ、日本製鉄・JFEスチールなど日本勢が技術で先行する分野です。
■ セーフガード(SG)と最低輸入価格
セーフガードは、輸入の急増で国内産業が重大な損害を受けたときに、一時的に関税などで輸入を制限する措置。今回のEUの措置は、グレードごとに「最低輸入価格」を決め、それより安く輸入される分に差額を課す方式で、単純な関税上乗せより「安値輸入だけを狙い撃ちする」設計です。
■ 酸洗鋼板
熱延鋼板の表面にできる酸化皮膜(スケール)を酸で洗い落とした鋼板。表面がきれいで加工しやすく、自動車部品や機械部品、プレス加工品などに使われます。薄板の店売り市況を見るうえで代表的な品種の一つです。
8. まとめ
- 欧州委がGOにセーフガード暫定措置──最低輸入価格×無税枠の「選別型」。高品質な日本・韓国材の輸入継続に配慮
- 鉄スクラップが約4カ月ぶり反発──東鉄の500円上げに各社追随、総合価格は4万8,700円に
- 薄板の店売りで値上げが浸透──酸洗鋼板は年度初めから1万円弱上昇、一部でデリバリー遅れも
- 大同特殊鋼が工具鋼を4万円以上値上げ──内需は18年比約4割減でも価格で採算を守る
- 8月粗鋼は666万トンで5カ月連続増──ただ年率7,800万トン台と依然低水準。「量より価格」の時代が続く
数量は伸びなくても、価格・品質・通商で勝負が続く鉄鋼業界。営業・流通・技術のどの職種でも「価格転嫁を実現できる人材」の価値が高まっています。
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本記事の出典:鉄鋼新聞(2026年9月24日付:薄板市況・ステンレス流通コスト・根津鋼材〔1面〕、9月25日付:欧州委のGOセーフガード・大同特殊鋼の工具鋼値上げ・8月粗鋼生産・関東鉄源協総会・東南アジア鉄鋼協会〔1面〕)、日刊産業新聞(9月24日付:特殊鋼棒線〔1面〕、9月25日付:鉄スクラップ相場〔1面〕)。数値は各記事の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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