「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年9月28日〜10月2日)は、「値上げの波が日本製鉄まで届き、供給側には思わぬ穴が空いた週」でした。日本製鉄が薄板の追加値上げを決め、主要高炉3社の値上げがそろいました。その一方で、JFEスチール千葉地区は豪雨と台風で高炉が不調に陥り、約60万トンの減産を見込みます。国際的には、鉄鋼の過剰生産能力を減らす新しい枠組みに主要国が合意しました。
本記事は2026年10月3日時点の公開情報(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の紙面ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年9月28日付〜10月2日付の紙面、各社の発表、日本経済新聞ほかの公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 日本製鉄、薄板を5,000円追加値上げ──今年3回目、累計2万円で高炉3社がそろい踏み
- 2. JFEスチール千葉地区、豪雨・台風で高炉不調──粗鋼約60万トンの減産見込み
- 3. 鉄鋼グローバルフォーラム、過剰能力削減へ「共同行動枠組み」で合意
- 4. 米メサビ・メタリックス、約2.4兆円で新製鉄所──単一製鉄所で米国史上最大
- 5. 岡谷鋼機が新中計、伊藤忠丸紅鉄鋼は設立25周年──商社の「次の5年」
- 6. 今週の短信──磨棒鋼の値上げ浸透、日鉄ステンレス鋼管のフル生産ほか
- 7. 今週の用語解説
- 8. まとめ──今週の3行サマリ
1. 日本製鉄、薄板を5,000円追加値上げ──今年3回目、累計2万円で高炉3社がそろい踏み
【何が起きた?】日本製鉄は、国内店売り、リロール・パイプ・軽量形鋼向けの薄板について、熱延黒皮・酸洗・冷延・めっきの全品種を対象に10月引受分(11月出荷相当)からトン当たり5,000円の値上げを決め、需要家・流通各社への申し入れを始めました。2026年度の累計値上げ幅は2万円で、今年に入って3回目の値上げです(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月30日付1面)。
値上げ幅を5,000円にした理由について、日本製鉄は「当社は値上げを決めたら必ず実行する。原料炭の高騰に加え、労務費や物流費をはじめとする諸コストの上昇は続いており、その規模はトン5千円を超えているが、足元のマーケットにおける市況の動向などを踏まえて決めた」としています。今後も「さらなる値上げを速やかに判断し実行していく」意向で、グループ会社製品の追加値上げも検討します。上期(4〜9月期)に打ち出したトン1万5,000円の値上げについては「上期中に値上げ実行を完遂している」としています。市場環境については、米国景気は底堅いものの、中国の不動産不況の継続などで全体として低成長が続くなか、中東情勢の悪化の長期化で不透明感が増しているとみています。上期の1万5,000円と今回の5,000円を合わせて、年度累計2万円になる計算です(日刊鉄鋼新聞同日付、計算は当ブログ)。
【なぜ重要?】先週お伝えしたJFEスチール・神戸製鋼所・東京製鉄に続き、日本製鉄も追加値上げに踏み切ったことで、主要メーカーの値上げがそろいました(先週の必修ニュース)。JFEスチールの加藤彰浩副社長も、日刊鉄鋼新聞のインタビューで追加値上げ1万円・累計2万5,000円の背景に諸コスト高と原料炭価格の高騰を挙げています(9月29日付1面)。
| メーカー | 直近の値上げ | 今年度の累計 |
|---|---|---|
| 日本製鉄(5401) | 薄板4品種、10月引受分からトン5,000円 | 2万円 |
| JFEスチール | 10月商談から全品種トン1万円 | 2万5,000円 |
| 神戸製鋼所 | 10月出荷分から全鋼材5,000円以上 | 2万円超 |
| 東京製鉄 | 10月契約で鋼板類3,000円(厚板2,000円) | 1万7,000円 |
日本製鉄は「まず5000円」と表現しており、さらなる値上げの可能性を残しています。原料炭の価格や中東情勢の動き次第で、年末に向けて第2弾があるかどうかが次の焦点です。流通・需要家の方は、11月出荷分の価格交渉に備えておきましょう。日本製鉄の業績や株価の見方は日本製鉄(5401)の銘柄まとめで解説しています。
2. JFEスチール千葉地区、豪雨・台風で高炉不調──粗鋼約60万トンの減産見込み
【何が起きた?】JFEスチールは9月25日、8月の千葉豪雨と9月の台風25号で東日本製鉄所千葉地区(千葉市)の一部設備が冠水し、減産の影響が出ていると発表しました。8月中旬から高炉が出銑不調に陥っており、正常化のめどは立っていません。減産影響は現時点で粗鋼ベース約60万トンを見込みます。すでに一部製品の納入に遅れが出ており、国内外の顧客と個別に納期を調整しています。人的被害は出ておらず、業績への影響は精査中です(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月28日付1面、時事通信・共同通信)。
千葉地区は自動車用鋼板をはじめとする薄板にほぼ特化した主力製鉄所の一つで、2025年度の粗鋼生産は約359万トン。60万トンはその約17%にあたります(当ブログ計算:60÷359)。減産量は今後の復旧状況によって変わる可能性があるとしています(日刊鉄鋼新聞同日付)。
【なぜ重要?】薄板は第1章の値上げの中心品種です。メーカーが値上げを進めるなかで主力製鉄所の供給が細れば、需給が一段と締まる方向に働きます。先週の記事でも一部品種でデリバリー遅れが出ていると紹介しましたが、今回の減産はその流れを強める可能性があります(この段落は筆者の見立てです)。JFEの事業や株価の見方はJFEホールディングス(5411)の銘柄まとめもどうぞ。
日刊鉄鋼新聞によると、通常の生産水準に戻るのは早くとも10月中旬の見込みです。自動車向けなど薄板を使う取引先は、JFEからの納期連絡と、他メーカーへの振り替えの可否を早めに確認しておきたいところです。
3. 鉄鋼グローバルフォーラム、過剰能力削減へ「共同行動枠組み」で合意
【何が起きた?】鉄鋼の過剰生産能力の問題を話し合う多国間の枠組み「鉄鋼グローバルフォーラム(GFSEC)」は9月30日、米国ウィスコンシン州(ミルウォーキー)で閣僚級会合を開き、過剰能力の解消に向けた具体策を盛り込んだ「共同行動に関する包括的枠組み」をとりまとめました。参加国・地域が協力して過剰能力の削減に取り組むことで合意しています(日刊鉄鋼新聞10月2日付1面、日本経済新聞)。
- メルト・アンド・ポア情報:鉄鋼半製品などがどの国で製造されたかを示す情報を収集・公表する仕組みを新たにつくる
- 通商措置の活用:アンチダンピング(AD)や相殺関税(CVD)などを推奨し、鋼材の流入を水際で防ぐ
- 補助金問題:GFSEC非加盟国の非市場的な政策・慣行に関する情報収集を強化(過剰能力を抱える中国を念頭に置いたものとみられる)
- 活動期間:今年末で切れる活動期間を3年間延長する方針
会合後の共同声明は、過剰能力が再び拡大傾向にあり、過去最大級に迫りつつあると指摘しました(日刊鉄鋼新聞同日付)。
【なぜ重要?】中国などで余った鋼材が第三国を経由して流れ込む「迂回輸出」は、日本の鉄鋼業にとっても大きな悩みです。どこで溶かして固めたか(メルト・アンド・ポア)が分かれば、産地を偽った迂回輸出を見抜きやすくなります。日本経済新聞も「鉄鋼の迂回輸出、中国念頭に日米欧で対抗」と報じました。日本の鉄鋼輸出が伸び悩む背景は鉄鋼輸出「3,000万トン割れ」の深読み解説で詳しく解説しています。
4. 米メサビ・メタリックス、約2.4兆円で新製鉄所──単一製鉄所で米国史上最大
【何が起きた?】インドのエッサールグループ傘下で鉱山開発などを手がけるメサビ・メタリックス(本社・米ミネソタ州)は9月28日、アイオワ州での新製鉄所建設に150億ドル(約2兆4,000億円)を投資するとホワイトハウスで発表しました。単一の製鉄所としては米国史上最大の投資です。米国産の鉄鉱石を高品質のペレットに加工し、直接還元鉄(DRI)プラントと電気炉(EAF)を組み合わせて、原料の採掘から生産まで100%米国で完結するサプライチェーンを築きます(日刊産業新聞9月30日付1面)。
同社が持つミネソタ州ナシュウォークの鉄鉱石鉱山は、米国で50年ぶりに開発された新しい鉱山で、その投資額は30億ドルに達しています。米国鉄鋼協会(AISI)のケビン・デンプシーCEOは、計画を歓迎する声明を出しました(同)。
【なぜ重要?】高炉ではなく直接還元鉄と電気炉という脱炭素型の組み合わせで、国内に巨大な製鉄所を新設する点が注目です。日本製鉄が買収したUSスチールを含め、米国では国内生産を厚くする動きが続いており、米国市場の競争環境は日本の鉄鋼メーカーにとっても無関係ではありません(この段落は筆者の見立てです)。
5. 岡谷鋼機が新中計、伊藤忠丸紅鉄鋼は設立25周年──商社の「次の5年」
【何が起きた?】名古屋の鉄鋼商社、岡谷鋼機(7485・名証プレミア)は9月30日、2030年度を最終年度とする5カ年の中期経営計画「グローバル・イノベーション・チェンジ(Global Innovation Change)2030(GIC30)」を発表しました。最終年度の目標は連結売上高1兆5,000億円、純利益400億円、海外取引比率40%。海外事業の拡大、フィジカルAIなど先端技術への取り組み、人的資本への投資に力を入れます(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月1日付1面)。
同じ10月1日付の両紙1面には、伊藤忠丸紅鉄鋼が設立25周年を迎えたとして、石谷誠社長のインタビューが掲載されました。2001年10月に伊藤忠商事と丸紅の鉄鋼製品分野を統合して設立された同社は、日刊鉄鋼新聞の見出しで「業界に先駆け統合、収益トップクラスに成長」と紹介されています。
【なぜ重要?】国内の鋼材需要が伸び悩むなか、鉄鋼商社は海外とデジタル・先端技術に成長の軸を移しつつあります。岡谷鋼機が海外比率4割を掲げたのは、その象徴といえます(この段落は筆者の見立てです)。鉄鋼業界全体の流れは鉄鋼業界の将来性 2026年最新版で整理しています。
6. 今週の短信──磨棒鋼の値上げ浸透、日鉄ステンレス鋼管のフル生産ほか
- 磨棒鋼メーカー、春先からのトン1万〜2万円の値上げがようやく浸透──素材の特殊鋼棒鋼メーカーが追加値上げを打ち出すなか、まずは第1弾の完遂を目指す(日刊鉄鋼新聞10月2日付1面)
- 日鉄ステンレス鋼管、半導体装置向け高清浄度ステンレス鋼管を来年初からフル生産(月間5万本)へ──湘南工場(神奈川県藤沢市)の要員を拡充し、2027年1〜3月期から現状比約2〜3割増を目指す。生成AIの広がりで半導体関連の高需要が続くと判断(日刊鉄鋼新聞9月29日付1面)
- 日本鉄鋼連盟、2027年度税制改正要望を公表──カーボンニュートラル(CN)促進税制の創設や、GXスチールの市場形成に向けた措置を求めた(日刊産業新聞9月28日付1面)。広瀬鉄連会長(JFEスチール社長)は会見で、輸入鋼材の監視を継続・強化する考えを示し、アンチダンピング措置の早期の最終決定に期待を示した(両紙同日付)
- 共英製鋼、10月の鉄筋(異形棒鋼)販売価格はトン11万5,000円を下限に徹底(日刊産業新聞9月28日付1面)
- 神戸製鋼所、技術・製品などによるCO2削減貢献量は2025年度に6,742万トン──2030年目標(7,800万トン)に対する進捗率は86%(日刊鉄鋼新聞10月1日付1面)
- カナデビアと日鉄エンジニアリング、経営統合の協議を終了──日本製鉄子会社の日鉄エンジとカナデビアが2月に結んだ基本覚書を解約(日刊鉄鋼新聞9月30日付1面)。詳しくは造船版の必修ニュースで解説
7. 今週の用語解説
メルト・アンド・ポア(溶解・鋳造)とは
鉄を溶かし(melt)、型に流し込んで固めた(pour)場所を、その鋼材の「産地」とみなす考え方。半製品を別の国で加工して産地を変える迂回輸出を見抜くために使われます。鉄鋼グローバルフォーラムは、この情報を収集・公表する仕組みづくりで合意しました。
店売り・リロールとは
店売りは、鉄鋼メーカーが自動車会社などと直接契約する「ひも付き」ではなく、問屋・流通を通じて市中で販売する取引のこと。リロールは、メーカーから買った熱延鋼板などを別の会社が再び圧延して製品にする取引です。日本製鉄の今回の値上げは、これら市中向けの薄板が対象です。
出銑(しゅっせん)とは
高炉の中で鉄鉱石を還元して溶けた鉄(銑鉄)を、炉から取り出すこと。「出銑不調」は、この取り出しが順調にいかず、高炉が本来の量を生産できない状態を指します。JFE千葉地区の高炉は8月中旬からこの状態が続いています。
直接還元鉄(DRI)とは
鉄鉱石を溶かさずに、天然ガスや水素などで還元して作る鉄。電気炉の原料に使え、高炉より二酸化炭素の排出を減らしやすい製鉄方法として注目されています。メサビ・メタリックスの新製鉄所は、このDRIプラントと電気炉を組み合わせます。
8. まとめ──今週の3行サマリ
- 日本製鉄も薄板を5,000円追加値上げ──今年3回目・累計2万円。「まず5000円」で第2弾の余地も
- JFE千葉地区が豪雨・台風で高炉不調──粗鋼約60万トン減産見込み、薄板の需給は一段と締まる方向
- 鉄鋼グローバルフォーラムが共同行動枠組みで合意──メルト・アンド・ポア情報で迂回輸出に対抗。米国では約2.4兆円の新製鉄所計画も
- JFE千葉地区の高炉の復旧状況と、減産量の見直し(通常水準への回復は早くとも10月中旬の見込み)
- 日本製鉄の「さらなる値上げ」の判断と、11月出荷分の市中価格への浸透
- 鉄鋼グローバルフォーラムの枠組みを受けた、各国の通商措置の動き
値上げの波がそろう一方で、供給側にも穴が空き、国際的には迂回輸出への包囲網が強まった1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:日刊鉄鋼新聞(JFE千葉地区の減産・広瀬鉄連会長〔9月28日付1面〕、JFEスチール加藤副社長インタビュー・日鉄ステンレス鋼管〔9月29日付1面〕、日本製鉄の薄板追加値上げ・カナデビアと日鉄エンジ〔9月30日付1面〕、岡谷鋼機の新中計・伊藤忠丸紅鉄鋼25周年・神戸製鋼のCO2削減貢献量〔10月1日付1面〕、鉄鋼グローバルフォーラム・磨棒鋼〔10月2日付1面〕)、日刊産業新聞(JFE千葉地区・広瀬鉄連会長・鉄連の税制改正要望・共英製鋼〔9月28日付1面〕、日本製鉄の薄板追加値上げ・米メサビ・メタリックス〔9月30日付1面〕、岡谷鋼機・伊藤忠丸紅鉄鋼〔10月1日付1面〕)、日本経済新聞(鉄鋼グローバルフォーラム)、時事通信・共同通信(JFEの減産)。数値は各記事の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。


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