今週(2026年9月7日〜11日)の鉄鋼業界は、「値上げの攻防と再編・連携が同時に走った週」でした。鉄スクラップの輸出入札は円高が重荷となり4カ月連続の下落。一方で鉄筋メーカーは関東・関西とも値上げ浸透へ本腰を入れ、阪和興業は鉄鋼子会社3社の統合と巨大新倉庫を発表。JFEグループは5社連携で金属3Dプリンター事業に乗り出し、プロテリアルと大同特殊鋼は競合の垣根を越えた共同鉄道輸送を始めました。今週の要点だけをサクッと押さえたい方は、この記事1本でOKです。
各トピックは「何が起きたか」→「なぜ重要か」の順で、業界初心者の方にも分かるように解説します。
※本記事は鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年9月7日〜11日付各紙面ほか、公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 鉄スクラップ輸出入札は4万8,113円──円高が重荷、4カ月連続の下落
- 2. 鉄筋棒鋼は「値上げの正念場」──関東は早期浸透へ本腰、関西は10万5,000円狙い
- 3. 阪和興業が鉄鋼子会社3社を統合──堺に保管能力5万トンの次世代倉庫
- 4. JFEグループ5社が金属3D造形で連携──粉末から造形まで一気通貫
- 5. プロテリアル×大同特殊鋼が共同鉄道輸送──CO2は約62%減
- 6. 今週の短信──大阪製鉄の熊本圧延再開、岸和田製鋼の設備更新完工ほか
- 7. 今回の用語解説
- 8. まとめ
1. 鉄スクラップ輸出入札は4万8,113円──円高が重荷、4カ月連続の下落
【何が起きた?】関東の鉄スクラップ輸出業者でつくる関東鉄源協同組合が9月9日に実施した共同輸出入札(9月契約分)は、H2規格・FAS価格でトン当たり4万8,113円と、前月比973円安で決着しました。下落は4カ月連続。応札は14商社・合計10万400トンで辞退はゼロ、落札は1本・2万トンでした。向け先はバングラデシュで、船積み期限は10月31日。入札当日の為替は1ドル=153円台半ばと、前回入札時(8月7日)から約5円の円高が進んでおり、円建ての輸出価格を押し下げました(鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月10日付1面)。
| 今回の入札結果(9月契約分) | 内容 |
|---|---|
| 落札価格(H2・FAS) | トン4万8,113円(前月比973円安・4カ月連続下落) |
| 落札 | 1本・2万トン(応札上限を2万トンに拡大して実施) |
| 応札 | 14商社・合計10万400トン(辞退ゼロ・2カ月連続10万トン台) |
| 向け先/船積み期限 | バングラデシュ/10月31日 |
| 入札日の為替 | 1ドル=153円台半ば(前回比約5円の円高) |
【なぜ重要?】下げ相場とはいえ、中身を見ると「円高による目減り」が主因で、海外の買い意欲そのものは底堅いのがポイントです。バングラデシュ側は雨期明けの製鋼原料需要を見据えて買いを強めており、応札量も2カ月連続で10万トン台を維持。国内の電炉メーカーにとってスクラップ安はコスト面の追い風ですが、輸出価格は国内相場の「下値のモノサシ」でもあります。スクラップと鋼材価格の関係は市況価格の深読み解説で詳しく解説しています。
2. 鉄筋棒鋼は「値上げの正念場」──関東は早期浸透へ本腰、関西は10万5,000円狙い
【何が起きた?】建物の柱や梁に使う異形棒鋼(鉄筋)のメーカーが、関東・関西とも値上げ浸透の勝負どころを迎えています。関東では今年3月、合同製鉄と朝日工業の共同販売会社・関東デーバースチールがトン1万5,000円の値上げを表明済み。ただ今年度の鉄筋用小棒の国内需要(出荷量)予測は566万トンと前年度比約2.2%減で、1991年度の集計開始以来の過去最低を4年連続で更新する見通しという厳しい環境で、各社は電力料金などコスト高で収益悪化が続く中、値上げの早期浸透に本腰を入れています(鉄鋼新聞9月8日付1面)。関西では市中相場が年初の底値からトン1万円以上上昇しておおむね10万円で固まりつつあり、各社はまず10万5,000円への押し上げを狙う構えです。ただコスト高に販価改善のピッチが追いつかず、下期以降の収益改善はまさに「正念場」と報じられています(鉄鋼新聞9月11日付1面)。先週お伝えした神戸製鋼の追加値上げも9月4日に正式発表され、10月出荷分からトン5,000円以上・今春以降の累計では2万円以上(公表3回目)となりました。
【なぜ重要?】鉄筋は建設需要の減少で数量が伸びない中、「量より価格」で収益を守る戦いがまだ道半ばという構図です。需要が厳しくても電力・労務・物流のコストは下がらないため、値上げが浸透しなければメーカーの再投資余力が削られます。一方で買い手側のゼネコンは、2025年度決算でスーパーゼネコン各社が軒並み3割超の経常増益と報じられるほど好調。「売り手は過去最低需要、買い手は大幅増益」という非対称な構図だからこそ、いまが価格転嫁を進める数少ないチャンスであり、10万5,000円ラインに乗せられるかが下期の分水嶺になりそうです。
3. 阪和興業が鉄鋼子会社3社を統合──堺に保管能力5万トンの次世代倉庫
【何が起きた?】鉄鋼商社大手の阪和興業は9月4日、関西の鉄鋼流通子会社を再編すると発表しました。2027年4月1日付でダイサンを存続会社として、三栄金属とダイサン物流を吸収合併し、商号を「阪和三栄ダイサン」に変更します。統合会社の売上高は約300億円・取扱量は年間約24万トン規模。さらに堺市に在庫保管能力5万トンの次世代型新倉庫「HSDスチールセンター」(仮称)を建設し、2028年4月の稼働開始を目指します(鉄鋼新聞・日刊産業新聞9月7日付1面)。
| 三栄金属 | ダイサン | 統合後 (阪和三栄ダイサン) | |
|---|---|---|---|
| 売上高(26年3月期) | 176億円 | 109億円 | 約300億円規模 |
| 従業員数 | 92人 | 39人 | ─ |
| 月間取扱量 | 1万2,500トン | 7,000トン | 2万トン |
※鉄鋼新聞9月7日付の合併概要表より。このほかダイサン物流も統合対象です。
【なぜ重要?】鉄鋼流通は加工・物流の担い手不足と競争激化が続き、「バラバラの中規模拠点」より「大きく効率的な集約拠点」への再編が業界の流れになっています。先週は関西の一般形鋼市況で阪和ダイサンなど流通大手の値上げ表明が浸透し始めたことをお伝えしましたが、今回の統合はその担い手自身の体制強化。保管5万トンの新倉庫で即納・小口対応を強化し、西日本エリアのサプライチェーンの結節点を握る狙いです。流通の統合・大型化は今後も続きそうです。
4. JFEグループ5社が金属3D造形で連携──粉末から造形まで一気通貫
【何が起きた?】JFEスチール・日本鋳造・JFEエンジニアリング・JFEテクノリサーチ・JFEプラントエンジの5社が、金属3Dプリンターを活用した工業部品の受託製造ビジネスを連携して強化していく方針です。原料となる金属粉末の開発・製造から製品の造形・販売、品質評価・試験までをグループ内で分担し、国内最大級の大型金属製部品を造れる強みを生かして受託営業を本格化。鋼材販売における顧客への提案営業にも金属3Dプリンターのノウハウを活用し、新規事業として育成していく考えです(鉄鋼新聞9月9日付1面)。
【なぜ重要?】金属3D造形は「多品種・少量・複雑形状」の部品づくりに向く技術で、鋳型なしで作れるため納期短縮や在庫レス化のポテンシャルがあります。特注品が多く海外調達も難しい製鉄所向け設備部品はまさに好相性。鉄を「素材で売る」だけでなく「形にして売る」領域へ──高炉グループが川下の付加価値を取りに行く動きとして注目です。
5. プロテリアル×大同特殊鋼が共同鉄道輸送──CO2は約62%減
【何が起きた?】特殊鋼で競合するプロテリアルと大同特殊鋼が9月9日、物流会社のロジスティード西日本・丸太運輸と連携し、山陰地域と愛知県を結ぶ長距離往復の共同鉄道輸送を立ち上げたと発表しました(運用は8月から開始)。鋼材専用の鉄道コンテナを共同利用し、大同特殊鋼の知多工場(愛知県)からは山陰方面へ、プロテリアルの安来工場側からは愛知方面へ、往復とも荷物を積んだ状態で運ぶ「ラウンドユース型」を実現。鉄道区間は名古屋⇔伯耆大山(鳥取県)で、従来のトラック輸送に比べ年間CO2排出量を約62%、トラックドライバーの総走行時間を約76%削減する効果を見込みます。輸送量はプロテリアルから愛知県へ年間約1,018トン、大同特殊鋼から山陰地域へ約1,270トンの計約2,288トンの計画です(日刊産業新聞・鉄鋼新聞9月10日付1面)。
【なぜ重要?】鉄道コンテナ輸送の弱点は「帰り便が空っぽ」になりやすいことですが、ライバル同士が同じコンテナを使えば、行きも帰りも満載にできる──発想の転換で採算と環境負荷を同時に解決した形です。トラックドライバー不足(物流2024年問題)は鋼材物流の構造課題であり、「競争は製品で、物流は共同で」という割り切りは他地域・他品種にも広がる可能性があります。なお大同特殊鋼は同じ週、知多第2工場に鍛延品の熱処理・加工・検査ラインを構築し渋川工場から移管する計画も発表しており、生産・物流の両面で体制を見直しています(9月10日発表・11日付)。
6. 今週の短信──大阪製鉄の熊本圧延再開、岸和田製鋼の設備更新完工ほか
- 大阪製鉄、西日本熊本工場の圧延操業を再開──7月28日発生の熊本地震で被災していた同工場(熊本県宇土市)の圧延工程が9月5日から再開(9月8日付)
- 岸和田製鋼、圧延設備の更新工事が完工──総投資額約100億円。粗・中間圧延7スタンドを更新し9月から生産開始。品質チェック用の鋼材自動抜き取りロボットも導入(9月11日付)
- 薄板3品の国内向け在庫は390万1,000トン──7月末時点で前月比5万1,000トン減、2カ月連続の減少(速報値・9月7日付)
- 韓国ポスコ、光陽製鉄所で第8CGL着工──投資額約580億円・年産45万トン・2028年竣工予定。9年ぶりのCGL新設で、電炉と連携した自動車用低CO2鋼板の生産を目指す(9月9日付)
- シンニッタン、国内3子会社を吸収合併へ──2027年4月1日をめどに中部鍛工・セイタンなどを統合し、鍛造事業の全体最適化を図る(9月8日付)
- 愛知製鋼、東海市に新技術棟を建設──総投資額約100億円、2028年12月竣工を目指す(9月9日付)
- 東京製鉄、新卒内定承諾率が52.2%に急上昇──27年3月卒は前年度の36.4%から大幅改善。「環境関連産業」としての評価が追い風(9月9日付)
- 日本製鉄、ステンレス鋼板の9月契約価格を発表──ニッケル価格の変動を受け、ニッケル系冷延薄板と厚中板をトン1万5,000円(約2%)引き下げ。クロム系冷延薄板は据え置き(9月9日発表・10日付)
- 神戸製鋼所、米マルタ社と資本業務提携──同社の蒸気マネジメント技術を基盤に、高温ヒートポンプや溶融塩を用いた蓄熱・蓄電技術の普及を目指す(9月11日付)
- 世界鉄鋼メーカーの株式時価総額ランキング──米ニューコアが1位、アルセロール・ミッタル2位、インドJSWスチール3位と米・印勢が上位。日本製鉄は7位、ポスコは10位(9月8日付)
7. 今回の用語解説
■ FAS(エフ・エー・エス)
貿易条件の一つで「Free Alongside Ship=船側渡し」のこと。売り手は港で本船の横(船側)まで貨物を届けた時点で引き渡し完了となり、船への積み込み以降の費用は買い手持ち。鉄スクラップの輸出入札価格はこのFAS条件で表示されます。
■ ラウンドユース
コンテナを「行き」で使ったあと、空のまま返送せずに「帰り」の貨物にもそのまま使う運用方法。空コンテナの回送をなくせるため、輸送コストとCO2排出の両方を減らせます。今回のプロテリアル×大同特殊鋼の取り組みは、これを競合2社の貨物で実現した点が画期的です。
■ CGL(連続溶融亜鉛めっきライン)
鋼板を連続的に溶かした亜鉛の槽にくぐらせ、さび防止のめっきを施す設備。自動車の外板など高級鋼板づくりの要で、Continuous Galvanizing Lineの略。1本数百億円規模の大型投資になります。
■ ニッケル系とクロム系(ステンレス鋼板)
ステンレスは大きく、ニッケルを多く含む「ニッケル系」(キッチンシンクなどでおなじみのSUS304が代表)と、ニッケルをほぼ使わない「クロム系」(SUS430など)に分かれます。ニッケル系はニッケル相場の上下がそのまま価格に響くため、契約価格が毎月のように見直されるのが特徴です。今週の日本製鉄の値下げも、ニッケル価格の変動を映したものでした。
8. まとめ
- 鉄スクラップ輸出入札は4万8,113円で4カ月連続下落──ただし主因は円高で、海外の買い意欲は底堅い
- 鉄筋は関東・関西とも値上げの正念場──関西は10万円台固めから10万5,000円へ。神鋼の累計値上げは2万円以上に
- 阪和興業が関西の流通子会社を統合──「阪和三栄ダイサン」誕生へ、堺に5万トンの次世代倉庫
- JFEグループ5社が金属3D造形で連携──素材から形まで、川下の付加価値を取りに行く
- 競合2社が物流で手を組む時代に──プロテリアル×大同の共同鉄道輸送でCO2約62%減
値上げの攻防、流通の再編、3Dプリンターに共同物流──鉄鋼業界は「作る」以外の場所でも大きく動いています。変化の速い業界だからこそ、転職・就職でもキャッチアップしている人が強い。
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本記事の出典:鉄鋼新聞・日刊産業新聞(2026年9月7日〜11日付各紙面:関東鉄源協同組合の輸出入札〔9月10日付1面〕、関東・関西の異形棒鋼〔9月8日・11日付1面〕、阪和興業の子会社統合〔9月7日付1面〕、JFEグループ5社の金属3D造形連携〔9月9日付1面〕、プロテリアル・大同特殊鋼の共同鉄道輸送〔9月10日付1面〕、神戸製鋼の追加値上げ〔9月7日付1面〕、短信各項)。数値は各記事の公表時点のものです。
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