「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。
本記事は2026年7月18日時点の公開情報(日刊産業新聞・日刊鉄鋼新聞の紙面、経済産業省・各社発表)をもとに、今週(7月13日〜17日)のトピックスを凝縮しました。今週の主役は日本製鉄の「鉄スクラップ調達 新規格」──電炉時代の原料争奪戦を先取りする構造ニュースです。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は2026年7月18日時点の公開情報に基づきます。数値・内容は公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 日本製鉄、鉄スクラップ調達に新規格──「銅濃度」で分類する時代へ
- 2. 7〜9月の粗鋼需要は2,018万トン──前年比プラスでも「低水準」続く
- 3. 東京製鉄は全品種据え置き、日鉄は値上げ維持──「値決め」の分岐週
- 4. 三菱製鋼、インドネシア電炉で高付加価値シフト
- 5. その他、今週の小ネタ
- 6. 今週の用語解説──ニュースを読み解くキーワード
- まとめ──今週の3行サマリ
1. 日本製鉄、鉄スクラップ調達に新規格──「銅濃度」で分類する時代へ
今週いちばんの構造ニュースです。日本製鉄が、革新大型電炉での高級鋼生産をにらんで鉄スクラップの調達方針を刷新し、新しい規格を導入することが分かりました(日刊産業新聞 7月17日付1面)。7月15日に一次案として取引先に伝えたもので、柱は2本立てです。
- 「指定品」──銅(Cu)の濃度を基軸に品位を設定する新規格。等級に応じて銅濃度の上限を定め、選別プロセスを確認した上で購入する
- 「オープン品」──厚みなど従来の規格を踏襲しながら、一部寸法などを見直した規格
ポイントは発想の転換です。従来は「厚みが薄い」というだけで下級スクラップとして扱われてきた材料でも、トランプエレメント(銅など、鋼の品質を左右する循環性元素)が少なければ品位を評価して積極活用する方針に変わります。対象となるのは、九州製鉄所八幡地区と瀬戸内製鉄所広畑地区の電炉を軸とした高級鋼生産で、購買体制についても、これまでの製鉄所ごとから本社集中購買への変更を視野に入れていると報じられています。
📌 ここはチェック
高炉から電炉への転換が進むほど、「どれだけ銅の少ない上質なスクラップを確保できるか」が高級鋼の生産力を決めます。今回の新規格は、スクラップが「量の商品」から「質の商品」に変わる転換点になり得るもので、スクラップ業者・電炉他社の値決めにも波及する可能性があります。電炉転換の全体像は鉄鋼業界の将来性 2026年最新版で、日鉄の戦略は日本製鉄(5401)銘柄まとめで解説しています。
2. 7〜9月の粗鋼需要は2,018万トン──前年比プラスでも「低水準」続く
経済産業省は7月15日、2026年度第2四半期(7〜9月期)の鋼材需要見通しを発表しました。出荷等相当粗鋼需要量は2,018万トン。前年同期比では1.3%増えるものの、前期(4〜6月)比では2.1%減と、2四半期ぶりの前期比マイナスです(日刊産業新聞・日刊鉄鋼新聞 7月16日付1面)。年率換算では8,000万トン程度と、歴史的にみて低い水準が続きます。
内訳を見ると、鋼材需要は1,805万トンで前年同期比3.1%減。分野別では、人手不足や工期の遅れが続く建設向けが前年割れの一方、データセンターや半導体工場の建設を背景とした重電向けの増加が下支え役と報じられています(日刊工業新聞)。造船向けは約77万トンと、前期比では増加を見込みます。鉄鋼業界の会合では景気は「緩やかに回復」との見方が示されつつ、中東情勢の影響を注視する姿勢も強調されました(日刊産業新聞 7月16日付)。
📌 ここはチェック
「前年比プラス」と「低水準」は矛盾しません。前年が悪すぎたため比較上はプラスに見えるだけで、国内の鋼材消費の地盤沈下は止まっていない──これが統計の正しい読み方です。だからこそ各社は輸出・高付加価値品・電炉転換に活路を求めています。
3. 東京製鉄は全品種据え置き、日鉄は値上げ維持──「値決め」の分岐週
電炉最大手の東京製鉄は7月13日、8月契約の鋼材販売価格を全品種で据え置くと発表しました。据え置きは2カ月ぶりで、理由は「前回の値上げの浸透見極め」。主な販売価格(ベース)はH形鋼が トン11万6,000円、ホットコイル10万円、異形棒鋼9万5,000円、厚板10万8,000円です(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞 7月14日付1面)。インフレでコスト環境が厳しさを増すなか、追加値上げの可能性を残しつつ、まずは市中への浸透を確実にする構えです。
一方の日本製鉄は、店売り向けH形鋼について値上げの方針を維持(日刊産業新聞 7月16日付)。市況も動いています。関東地区では平鋼・角鋼の市況が3,000円上昇(同 7月14日付)、クロム系ステンレス冷延薄板は前月比トン2万円上伸してSUS430ベースサイズが43万円どころに(同 7月17日付)。先週のニッケル系AD暫定課税に続き、ステンレスの価格是正がクロム系にも広がってきました。JFEスチールも国内店売り向け鋼管を8月契約分から5%値上げすると発表しており(同 7月15日付・今年3度目)、「据え置き」も「値上げ」も、方向としてはコスト転嫁の徹底で一致しています。
4. 三菱製鋼、インドネシア電炉で高付加価値シフト
特殊鋼の話題です。三菱製鋼のインドネシア電炉子会社ジャティムは、高付加価値品の比率を現在の水準から3割に高める方針を打ち出しました。有害元素の少ないローカーボンスチールなど同社の強みを生かし、クロム・モリブデン鋼(SCM)のサンプル出荷を開始。顧客ニーズの高いギア用鋼などを中心に量産受注を目指し、段階的な設備増強も検討します(日刊産業新聞 7月15日付1面)。
三菱製鋼の山口淳社長は別のインタビューで「収益構造転換」が着実に進捗しているとの認識を示しており(同 7月17日付1面)、国内の構造改革+海外電炉の高付加価値化という二正面の立て直しが形になりつつあります。ASEANの電炉が日系品質の特殊鋼を作る流れは、日本の特殊鋼メーカーの海外戦略として要ウォッチです。
5. その他、今週の小ネタ
- 東京製鉄が岡山工場(岡山県倉敷市)の溶融亜鉛めっきラインを冷延コイル兼用ラインに改造へ──今年12月〜来年2月に工事で休止し、来年3月から試運転。「アップサイクル」路線の設備投資が続きます(日刊鉄鋼新聞 7月14日付1面。東京製鐵(5423)銘柄まとめも参照)
- 日本製鉄のGX鋼材「NSカーボレックス ニュートラル」を、サミットスチールが7月から関西地区で定尺在庫販売開始──薄板流通での定尺在庫販売は初。グリーン鋼材が「取り寄せ品」から「在庫品」になる一歩です(日刊産業新聞 7月13日付1面)
- 日本製鉄、チタン展伸材を26年度下期契約分から一律キロ100円値上げ──スポンジチタンなど原料価格の上昇が背景(日刊産業新聞・日刊鉄鋼新聞 7月14日付1面)
- 東海カーボン、電炉用黒鉛電極を10月から国内向けで一段値上げ──トン当たり15万円の値上げを打ち出し。電炉のコスト要因として注視(日刊鉄鋼新聞 7月16日付1面)
- 神鋼商事・熊谷組・清本鉄工の共同出資で「ブラックバークペレット」を国内初の量産へ──愛媛・西条で工場竣工。樹皮を原料とし、一般炭や原料炭の代替材として10月から商業生産予定。鉄鋼の脱炭素の「原料側」の動きです(日刊鉄鋼新聞 7月16日付1面)
- H形鋼の流通在庫(ときわ会・6月末)は前月比1.6%減の21万5,500トンと3カ月連続減──在庫率3.31カ月。需給の引き締まりがじわり続きます(日刊産業新聞 7月16日付1面)
6. 今週の用語解説──ニュースを読み解くキーワード
トランプエレメントとは
鉄スクラップに含まれる銅・スズなど、リサイクルの過程で鋼に混ざり込み、除去が難しい元素のこと(循環性元素)。とくに銅は多すぎると鋼材の表面割れなどの原因になり、高級鋼をスクラップから作る際の最大の壁とされます。米大統領とは無関係で、英語のtramp(さまよう・漂着する)に由来する用語です。日本製鉄の新規格は、まさにこのトランプエレメントの管理を規格化する試みです。
革新電炉(革新大型電炉)とは
従来の電炉より大型で、高炉に匹敵する高級鋼の生産を目指す次世代の電気炉。日本製鉄が九州製鉄所八幡地区と瀬戸内製鉄所広畑地区で導入を進めるものが代表例で、CO2排出を大幅に減らしながら自動車用鋼板などの高級品を作ることを狙います。GX(グリーントランスフォーメーション)の中核設備です。
店売り/ひも付きとは
鋼材の販売ルートの業界用語。「ひも付き」は自動車メーカーなど最終需要家と価格を直接交渉する取引、「店売り」は問屋・流通経由で市中に売る取引を指します。東京製鉄の販価や日鉄のH形鋼値上げのニュースは、主にこの「店売り」の世界の話です。
出荷等相当粗鋼需要とは
経済産業省が四半期ごとに公表する統計で、国内向け・輸出向けの鋼材需要を、粗鋼(精錬したままの鋼)の生産量に換算した数値。日本の鉄鋼業の「体温計」として業界で最も注目される指標の一つで、かつて年1億トンを超えた粗鋼生産は、いまや年8,000万トン程度の水準になっています。
まとめ──今週の3行サマリ
- 日本製鉄が鉄スクラップ調達の新規格──銅濃度で品位を決める「指定品」を導入へ。電炉時代の原料争奪は「量」から「質」の競争に
- 7〜9月の粗鋼需要は2,018万トン──前年比1.3%増でも前期比2.1%減・年率8,000万トン程度の低水準。重電・データセンターが下支え
- 値決めは「浸透待ち」の据え置きと「値上げ維持」に分岐──東鉄は全品種据え置き、日鉄H形鋼・JFE鋼管・ステンレスは値上げ方向。コスト転嫁の徹底では一致
👀 来週以降の注目──①例年7月末〜8月頭に発表が集中する高炉・電炉大手の4〜6月期決算、②日鉄スクラップ新規格へのスクラップ業界・電炉他社の反応と関東鉄源の8月輸出入札、③AD暫定課税発動後のステンレス市況(ニッケル系・クロム系)の定着度。
「スクラップを銅濃度で買う」──地味に見えて、電炉時代の共通ルールになり得る大きな一歩が刻まれた1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:日刊産業新聞(2026年7月13日〜17日付紙面:日鉄スクラップ新規格〔17日付1面〕/経産省7〜9月見通し〔16日付1面〕/東京製鉄8月販価・チタン値上げ〔14日付1面〕/三菱製鋼ジャティム〔15日付1面〕・山口社長〔17日付1面〕/GX材定尺在庫〔13日付1面〕/H形鋼在庫・鉄産懇〔16日付1面〕/ステンレス市況〔17日付1面〕ほか)、日刊鉄鋼新聞(7月14日・16日付紙面:東京製鉄8月販価と岡山工場改造/粗鋼2,018万トン/黒鉛電極値上げ/ブラックバークペレット)、経済産業省 7月15日発表(産業新聞Web・日刊工業新聞報道で照合)、日本製鉄スクラップ新規格は産業新聞Web(7月17日)でも照合。本記事は執筆時点の公開情報に基づきます。詳細は各公式発表をご確認ください。
⚠️ 注意点
本記事は業界動向の情報整理を目的としたものであり、特定企業への投資や取引を推奨するものではありません。記載の数値は公表時点のものです。


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