「高炉が耐えた四半期に、電炉は沈んだ」──。2026年7月中旬から8月にかけて出そろった電炉4社(東京鐵鋼・合同製鐵・中部鋼鈑・東京製鐵)の2027年3月期 第1四半期決算は、4社中2社が経常赤字に転落、残る2社も3〜7割の減益という厳しい結果でした。犯人はどの短信にも登場する同じ言葉──「鉄スクラップ価格の高止まり」と「値上げ浸透までのタイムラグ」です。4社の決算短信PDF原本をすべて直接読み込み、横並びで比較します。
本記事は4社の決算短信(PDF原本)を直接確認したうえで、証券アナリストの目線で1Q決算・通期見通し・配当を横断比較します。数値はすべて一次資料ベース、投資スタンスに関わる部分は「個人的な意見」と明示して書き分けます。
※本記事は2026年8月14日時点の公開情報(東京鐵鋼〔7月31日発表〕・合同製鐵〔7月31日発表〕・中部鋼鈑〔8月7日発表〕・東京製鐵〔7月17日発表〕の各「2027年3月期 第1四半期決算短信」等)に基づきます。東京製鐵は非連結(単独)、他3社は連結の数値です。金額は百万円未満切捨ての開示値を億円に丸めて表記しています。
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- 1. 4社横並びハイライト──2社赤字・2社減益
- 2. 共通の逆風──スクラップ高と「値上げのタイムラグ」
- 3. 電炉3社の中身──東京鐵鋼・合同製鐵・中部鋼鈑
- 4. 東京製鐵──電炉最大手が営業赤字、それでも最終黒字の理由
- 5. 通期予想と進捗率──合同製鐵は上期だけ下方修正
- 6. 配当と株主還元──増配・減配・維持が交錯する「4社4様」
- 7. アナリストの視点──投資スタンスと注目KPI
- 8. まとめ
1. 4社横並びハイライト──2社赤字・2社減益
| 27年3月期 1Q | 東京鐵鋼 (5445) | 合同製鐵 (5410) | 中部鋼鈑 (5461) | 東京製鐵 (5423) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 200.8億円 (+4.2%) | 497.8億円 (+3.9%) | 150.5億円 (+25.0%) | 729.2億円 (▲1.3%) |
| 営業損益 | 25.4億円 (▲29.2%) | 4.5億円 (▲84.7%) | ▲3.1億円 (赤字転落) | ▲23.0億円 (赤字転落) |
| 経常損益 | 25.3億円 (▲30.8%) | 9.8億円 (▲73.4%) | ▲1.6億円 (赤字転落) | ▲17.4億円 (赤字転落) |
| 四半期純損益 | 15.4億円 (▲33.9%) | 6.6億円 (▲77.2%) | ▲1.2億円 (赤字転落) | 18.8億円 (▲49.5%)※ |
| 営業利益率(当ブログ計算) | 12.7% | 0.9% | ▲2.1% | ▲3.2% |
| 自己資本比率 | 74.4% | 55.3% | 87.4% | 75.2% |
※出典:各社決算短信。東京鐵鋼=鉄筋用棒鋼(ネジテツコン)中心の電炉、合同製鐵=棒鋼・形鋼等の電炉(大阪)、中部鋼鈑=厚板専業の電炉(名古屋)、東京製鐵=ホットコイルなど鋼板系に強い国内電炉最大手(非連結)です。※印の東京製鐵の純利益は資産売却益による黒字(本文4章参照)。
目を引くのは「売上はおおむね保っているのに、利益はほぼ全滅」という構図です(増収3社・微減収1社)。売れ行きの問題ではなく、採算(値差)の問題であることが横並びにするとはっきり分かります。
2. 共通の逆風──スクラップ高と「値上げのタイムラグ」
4社の短信は、驚くほど同じ説明をしています。電炉の主原料である鉄スクラップの価格が、国内需要が低調にもかかわらず高値圏で推移し、エネルギーコストも円安で高止まり。一方で製品の値上げは「販売価格の改善が出荷単価に反映されるまでにはタイムラグがある」(合同製鐵)、「値上げの浸透には一定のリードタイムを要する」(中部鋼鈑)ため、製品価格と原料価格の差=メタルスプレッドが縮小しました。合同製鐵は調達環境を「これまでに例を見ない極めて厳しい状況」とまで表現。東京製鐵も前年度末から計3回の製品値上げを実施しながら、「製品出荷価格に反映するまでには相応の時間を要する」として赤字を計上しました(各社決算短信)。
背景には、国内建設需要の低迷もあります。人手不足や労働時間の上限規制で工期の長期化が常態化し、資機材高騰で建設案件の延期・中止も散見される(合同製鐵の短信)──つまり「売り先は弱いのに、原料だけ高い」という板挟みです。スクラップ市況の構造変化はスクラップ新規格の深読み解説で詳しく扱っています。なお、同じ1Qでも日本製鉄など高炉大手は値上げ浸透と高付加価値品で利益を確保しており、「高炉と電炉の明暗」が今四半期の鉄鋼決算の最大の特徴になりました。
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3. 電炉3社の中身──東京鐵鋼・合同製鐵・中部鋼鈑
■ 東京鐵鋼(5445)──減益でも利益率12.7%はさすが
出荷量の増加で増収を確保しつつ、値差の縮小で営業29.2%減益。それでも営業利益率12.7%(当ブログ計算)は4社で断トツです。鉄筋用棒鋼のトップブランド「ネジテツコン」の価格支配力が、逆風下でも一定の採算を守った形です。なお同社は2026年4月1日付で1株→3株の株式分割を実施しており、1株利益や配当を前期と比べる際は分割調整が必要です(後述)。バランスシートでは自己株式が約4.5万株→約31.8万株へ増加しており、自社株買いを進めていることが読み取れます(決算短信)。
■ 合同製鐵(5410)──営業84.7%減、輸出で数量をしのぐ
国内需要の低迷を輸出の増加で補って増収を確保したものの、スプレッド縮小が直撃し営業利益はわずか4.5億円。本業の鉄鋼事業の経常利益は9.7億円(前年同期比26.7億円の減益)でした。中期ビジョン2030に基づき「需要見合いの生産」と「再生産可能な販売価格の実現」を掲げますが、1Qは値上げが追いつきませんでした。なお包括利益は▲11.7億円とマイナスで、保有株式の評価差額金の減少も純資産を押し下げています(決算短信)。
■ 中部鋼鈑(5461)──数量は増えたのに赤字転落
厚板の販売数量は前年同期を上回り、売上は25.0%増と4社で最大の伸び。それでも販売価格が前年を下回る中でスクラップ価格が高止まりし、営業損益は▲3.1億円の赤字に転落しました。「数量増でも赤字」は、スプレッド縮小の破壊力を最も生々しく示す決算です。一方でレンタル・物流・エンジニアリングの非鉄鋼3セグメントはそろって増益と、脇は固めています。自己資本比率87.4%という要塞のような財務は健在です(決算短信)。
4. 東京製鐵──電炉最大手が営業赤字、それでも最終黒字の理由
国内電炉最大手の東京製鐵は、この逆風を最も大きく受けた1社です。スクラップ急騰に対し前年度末から計3回の製品値上げを打ちましたが、出荷価格への反映が間に合わず営業損益は▲23.0億円の赤字に転落。それでも四半期純利益が18.8億円の黒字なのは、投資有価証券をはじめとした資産売却を実施したためで、本業の赤字を資産の切り売りで補った形です(決算短信)。注目すべきは通期見通しで、同社は期初(4月24日)から営業▲40億円・経常▲25億円の通期赤字を計画。7月17日の修正は、売却益を織り込んで純利益を0→10億円に引き上げただけで、本業赤字の見通しは変えていません。前期は純利益115.5億円を稼いだ会社の急変であり、「下期にかけて採算の改善を見込んでおります」(短信)とする値上げ浸透シナリオを実現できるかが最大の焦点です。なお同社は足元でスクラップ購入価格の連続引き下げにも動いており(産業新聞8月12日付)、原料側からの値差立て直しも並行しています。
5. 通期予想と進捗率──合同製鐵は上期だけ下方修正
| 通期予想(27年3月期) | 東京鐵鋼 | 合同製鐵 | 中部鋼鈑 | 東京製鐵 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 760億円 (+4.8%) | 2,000億円 (+4.3%) | 696億円 (+36.2%) | 3,150億円 (+17.5%) |
| 経常損益 | 100億円 (▲16.9%) | 70億円 (▲36.9%) | 15億円 (+34.7%) | ▲25億円 (赤字予想) |
| 当期純利益 | 71億円 (▲12.1%) | 43億円 (▲46.6%) | 9億円 (▲29.4%) | 10億円 (▲91.3%) |
| 予想1株当たり当期純利益 | 277.46円 | 299.31円 | 33.22円 | 9.81円 |
| 1Q経常進捗率(当ブログ計算) | 25.3% | 14.0% | ─(1Qは赤字) | ─(通期赤字予想) |
※出典:各社決算短信・修正開示。経常段階の通期見通しは4社とも従来予想から変更なし(東京製鐵は7月17日に純利益のみ売却益を織り込み0→10億円へ修正)です。
注目は合同製鐵です。同社は7月31日、2Q累計(上期)予想だけを下方修正しました(営業23億円→6億円、経常26億円→10億円)。理由は「鉄スクラップ価格が当初の想定よりも高値圏で推移」。一方で通期予想(経常70億円)は据え置き──つまり「上期は我慢、下期に値上げ浸透で取り返す」というシナリオを描いています(業績予想の修正に関するお知らせ)。中部鋼鈑の通期も、1Q赤字から一転して経常15億円(34.7%増益)を見込む「下期回復型」。東京製鐵も売上17.5%増・下期採算改善を見込んでおり、電炉勢の通期予想は、そろって値上げの浸透が前提になっている点は押さえておきたいところです。
6. 配当と株主還元──増配・減配・維持が交錯する「4社4様」
| 年間配当 | 前期実績 | 今期予想 | 方向 | 株主還元の動き |
|---|---|---|---|---|
| 東京鐵鋼 | 300円 (分割前) | 100円 | 実質維持 (分割換算で前期100円相当) | 自社株買い進行 (自己株式が増加) |
| 合同製鐵 | 180円 | 100円 | 減配予想 | 自己株買い枠を新設 (上限9億円・25.7万株、8/3〜10/31) |
| 中部鋼鈑 | 104円 | 113円 | 増配予想 (1Q赤字でも据え置き) | 自己株買い進行中 (8月6日に取得状況を開示) |
| 東京製鐵 | 50円 | 40円 | 減配予想 | 資産売却で最終黒字を確保 |
※出典:各社決算短信・適時開示。東京鐵鋼は2026年4月1日付で1株→3株の株式分割を実施しており、前期の300円は分割前の実額です(分割後換算では100円相当=今期予想と同水準)。
ここが4社で最も表情が分かれた部分です。合同製鐵の「100円への減配予想」は利益半減見通しに沿った業績連動型で、前期・今期とも配当性向は3割強でほぼ一定です(当ブログ計算)。対照的に中部鋼鈑は1Qが赤字でも年113円への増配予想を維持。予想EPS33.22円に対する配当性向は300%を超える計算になりますが(当ブログ計算)、自己資本比率87.4%という厚い資本を背景にした還元で、利益の一時的な凹みに配当を連動させない設計です。東京製鐵の年40円への減配予想も、通期赤字計画に沿った業績連動型です。減配=悪、増配=善と単純に読むのではなく、「何を基準に配当を決める会社か」が横並びで見えてくるのが面白いところです。
7. アナリストの視点──投資スタンスと注目KPI
※ここから先は、公開情報をもとにした筆者の個人的な意見・見立てです。投資判断はご自身の責任でお願いします。
| 参考値(8月14日閲覧) | 東京鐵鋼 | 合同製鐵 | 中部鋼鈑 | 東京製鐵 |
|---|---|---|---|---|
| 直近株価 | 2,010円 | 2,966円 | 2,080円 | 1,717円 |
| 予想PER(当ブログ計算) | 約7.2倍 | 約9.9倍 | 約62.6倍 | ─※ |
| 予想配当利回り(同) | 約5.0% | 約3.4% | 約5.4% | 約2.3% |
※株価はYahoo!ファイナンス(2026年8月14日閲覧)。PER・利回りは各社の予想EPS・予想配当からの単純計算です。※東京製鐵は予想純利益がほぼ売却益由来のためPERは算出せず、参考値はPBR約0.8倍(当ブログ計算)です。
セクターとしての個人的なスタンスは「中立──下期の値上げ浸透を確認してから」です。電炉勢の通期予想はそろって下期回復が前提であり、スクラップ価格が高止まりしたまま値上げが遅れれば、2Q決算(11月ごろ)で下方修正が続く余地があります。逆に言えば、値上げ浸透の証拠(出荷単価の上昇)が見えた時が見直しのタイミングと考えます。個別では、利回り5%台の東京鐵鋼・中部鋼鈑が、厚い自己資本(74.4%・87.4%)と自社株買いに裏打ちされたインカム候補として注目に値すると見ています。中部鋼鈑のPER約62.6倍は「利益が凹んだ年はPERが高く見える」典型例。東京製鐵はPBR約0.8倍・自己資本比率75.2%と、赤字予想の年こそ資産面の厚みで評価する銘柄になっています。いずれも数字の見かけに惑わされないよう注意が必要です。
- スクラップ価格の高止まり長期化──中東情勢・エネルギー高が続けば「下期回復」シナリオそのものが崩れる
- 国内建設需要の一段の悪化──工期長期化・案件延期が常態化しており、数量面の下振れ余地
- 円高の進行──輸出でしのぐ合同製鐵には逆風方向。一方でエネルギーコストにはプラスと両面あり
- 高利回りの持続性──業績連動型の会社は減益が続けばさらなる減配もあり得る。配当基準の見極めが重要
注目KPIは、①製品出荷単価の上昇(値上げ浸透の証拠)、②鉄スクラップ価格の推移、③合同製鐵・中部鋼鈑の2Q決算での通期予想の扱い、④各社の自己株買いの進捗──の4点です。高炉大手との対比は日本製鉄・JFE・神戸製鋼の1Q決算まとめをどうぞ。
8. まとめ
- 売上は保っても、2社赤字・2社減益──売れ行きではなく採算(メタルスプレッド)の問題。共通の敵はスクラップ高と値上げのタイムラグ
- 電炉最大手・東京製鐵も営業赤字、通期も赤字計画──3回の値上げが追いつかず、資産売却で最終黒字を確保。中部鋼鈑も数量増ながら赤字転落。東京鐵鋼は減益でも利益率12.7%と底力
- 合同製鐵は上期だけ下方修正・通期は据え置き──電炉勢の通期予想はそろって「下期に値上げ浸透」が前提
- 株主還元は4社4様──業績連動で減配予想の合同・東京製鐵、赤字でも増配予想の中部、分割調整で実質維持の東京鐵鋼
- 高炉との明暗が今四半期の構図──値上げを転嫁しきる力の差が、そのまま決算の差になった(見立て)
本記事は各社の適時開示をもとに整理しています。正確な数値・前提は以下の公式資料を直接ご確認ください。
- 📄 東京鐵鋼 1Q決算短信(7月31日・TDnet)
- 📄 合同製鐵 1Q決算短信(7月31日・TDnet)/業績予想の修正に関するお知らせ
- 📄 中部鋼鈑 1Q決算短信(8月7日・TDnet)
- 📄 東京製鐵 1Q決算短信(7月17日・TDnet)/業績予想の修正に関するお知らせ
- 🌐 各社IRページ:東京鐵鋼/合同製鐵/中部鋼鈑/東京製鐵(TDnetのリンクは掲載期間終了後、各社サイトから)
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本記事の出典:東京鐵鋼・合同製鐵・中部鋼鈑の各「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」、東京製鐵「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」および「業績予想の修正に関するお知らせ」、合同製鐵「業績予想の修正に関するお知らせ」「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」(いずれもPDF原本を直接確認)、日刊産業新聞2026年8月12日付、Yahoo!ファイナンス(証券コード照合・株価、2026年8月14日閲覧)。営業利益率・進捗率・PER・PBR・配当利回り・配当性向は上記数値からの当ブログの単純計算です。
本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄への投資勧誘を目的としたものではありません。「アナリストの視点」の章は筆者の個人的な意見であり、将来の株価・業績を保証するものではありません。記載の数値は公表時点のものです。中小型株は株価変動・流動性のリスクが相対的に大きい点にご注意ください。投資の際は必ず最新の公式IR資料をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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