「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年11月2日〜11月6日)は、「高炉の上期決算で明暗が分かれた週」でした。日本製鉄はUSスチールの好調で今期2回目の上方修正、JFEホールディングスは千葉の豪雨・台風の影響で下方修正です。日本製鉄は水素100%での還元鉄製造にも成功し、国内では電炉・特殊鋼の値上げが続く一方、電炉各社の決算には原料高の重さが表れました。
本記事は2026年11月7日時点の公開情報(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の紙面、日本製鉄・JFEホールディングスの決算資料ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年11月2日付〜11月6日付の紙面、日本製鉄(11月5日)・JFEホールディングス(11月6日)の決算資料ほかの公開情報に基づき作成しています。数値は各記事・各発表の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 高炉の上期決算で明暗──日本製鉄は再上方修正、JFEは下方修正
- 2. 日本製鉄、水素100%で還元鉄の製造に成功──低品位鉱石で累計1,000トン超
- 3. 国内外で再編──日鉄物産がスロバキアの加工拠点を取得、日鉄鋼板は市川のラインを休止
- 4. 値上げは条鋼・特殊鋼・土木へ──JFE条鋼3,000円、三菱製鋼1万円、日本製鉄は輸送エキストラ
- 5. 電炉の決算に原料高の重さ──大阪製鉄は赤字、共英製鋼は45%減益、大和工業は米国で上方修正
- 6. 今週の短信──粗鋼シェア、平鋼需要、東京製鉄の「ほぼゼロ」ほか
- 7. 今週の用語解説
- 8. まとめ──今週の3行サマリ
1. 高炉の上期決算で明暗──日本製鉄は再上方修正、JFEは下方修正
【何が起きた?】高炉大手2社が上期決算を発表しました。日本製鉄(5401)は11月5日、通期の事業利益予想を6,300億円から7,200億円へ、純利益予想を2,900億円から4,400億円へ引き上げました。今期2回目の上方修正です。JFEホールディングス(5411)は11月6日、通期の事業利益予想を2,150億円から1,950億円へ、純利益予想を1,500億円から1,300億円へ引き下げました。
| 項目(億円) | 日本製鉄 | JFEホールディングス |
|---|---|---|
| 上期の売上収益 | 5兆8,441 | 2兆4,004 |
| 上期の事業利益(前年同期) | 3,074(2,275) | 767(457) |
| 在庫評価差などを除く上期の事業利益(前年同期) | 3,133(3,457) | 447(937) |
| 上期の純利益(前年同期) | 2,629(▲1,133) | 537(266) |
| 通期の事業利益予想(修正前) | 7,200(6,300) | 1,950(2,150) |
| 通期の純利益予想(修正前) | 4,400(2,900) | 1,300(1,500) |
| 年間配当予想 | 24円(据え置き) | 80円(据え置き) |
■ 日本製鉄:USスチールが稼ぎ頭に
実力ベース事業利益の通期予想は7,000億円から7,700億円へ。増えた700億円はすべて海外で、うちUSスチールが500億円です(通期2,300億円以上)。国内は3,800億円で据え置きました。純利益の上方修正1,500億円のうち961億円は、USスチールの設備投資に関わる米アーカンソー州の税額控除という一過性の効果です。岩井尚彦上席常務執行役員(CFO)は足元の事業環境について「厳しい状況が継続している」とする一方、下期は生産・出荷のリカバリーに加えて追加値上げを実施していく考えを示しました(日刊鉄鋼新聞11月6日付1面)。詳しくは日本製鉄(5401)の株価・配当・今後で解説しています。
■ JFE:千葉の豪雨・台風で事業利益▲500億円
8月13日の線状降水帯による千葉地区の冠水に続き、9月21日の台風25号の大雨で新たな被害が発生しました。粗鋼の減産影響は年間で約70万トン(9月25日公表時より10万トン拡大)、事業利益への影響は年間約500億円(数量▲250億円、コスト▲250億円)の見込みです。中東情勢の影響も年間700億円と、前回公表より100億円増えました。単独の粗鋼量は年間2,150万トン程度から2,080万トン程度に下がります(同社資料)。
明暗を分けたのは、海外で大きく稼ぐ柱の有無と、豪雨・台風の直撃です(筆者の見立て)。ただし、在庫評価差などを除いた上期の利益は、両社とも前年同期を下回りました。日本製鉄は3,457億円→3,133億円、JFEは937億円→447億円です。国内で原料高をどこまで価格に反映できるかが、下期の共通の課題です。株価は11月6日、日本製鉄が656.5円(前日比−1.4%)、JFEが1,747円(同−2.5%)でした(Yahoo!ファイナンス)。
2. 日本製鉄、水素100%で還元鉄の製造に成功──低品位鉱石で累計1,000トン超
【何が起きた?】日本製鉄は11月4日、天然ガスを使わず水素100%で、低品位の鉄鉱石から直接還元鉄(DRI)を製造する試験に成功したと発表しました。茨城県神栖市の波崎研究開発センターで今春に稼働させた試験還元炉(製造能力は1時間当たり1トン、炉高約60メートル)で、高炉用のペレットを原料に、約300時間(12.5日間)の連続操業を含めて累計1,000トン超を製造しました。同社は、水素100%かつ低品位鉱石という条件でのDRI製造の実証は少なくとも国内初とみています(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞11月5日付1面)。
水素で還元すると反応で熱を奪われ、炉内の温度が下がりやすくなります。また低品位の鉱石は、還元の途中で粉になりやすいという問題がありました。今回は炉内の温度を保つ熱補償の技術と、粉化を抑える操業技術で、これらの課題に対応しました。2027年度からは大容量化に向けたより大規模な試験に入り、2040年ごろまでの実機化技術の確立を目指します(同)。
【なぜ重要?】既存の商用還元炉は鉄分が多く不純物の少ない高品位の鉱石を使うのが一般的ですが、高品位鉱石は供給量に限りがあります。豊富にある低品位鉱石を使える技術になれば、原料の面でも選択肢が広がります(日刊鉄鋼新聞)。日本製鉄は「大型電炉での高級鋼製造」「高炉での水素還元技術」「水素による還元鉄製造」の3つの超革新技術を開発しており、今回はその3つ目の前進です。実用化までは長い道のりで、水素の調達コストも別の課題になります(後段は筆者の見立てです)。
3. 国内外で再編──日鉄物産がスロバキアの加工拠点を取得、日鉄鋼板は市川のラインを休止
【何が起きた?】日鉄物産は10月30日、スロバキアの鋼材サービスセンターCLNスロバキア(CLNSK)の全株式を取得すると決めました。日本製鉄の欧州の製造拠点ニッポン・スチール・スロバキア(NSSK)の構内に拠点を置く会社で、日鉄物産にとって欧州で初めての鋼材加工拠点になります。イタリアの大手自動車部品メーカーであるCLNグループから年内をめどに取得し、社名を「NSTサービスセンター・スロバキア」に変えます。CLNSKは2007年の設立で、主に自動車向けに鋼材のスリット加工やレベラー加工を手がけ、資本金は1,000万ユーロ(約18億円)、従業員は69人です(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞11月2日付1面)。
国内では、日鉄鋼板が11月2日、東日本製造所市川地区(千葉県市川市)の3号めっきライン・3号塗装ライン・精整ラインを2028年6月末をめどに休止すると発表しました。建材薄板の需要が厳しくなるなかで生産体制を最適化します。同社が受託している高耐食めっき鋼板「ZAM」の生産は、日本製鉄の瀬戸内製鉄所阪神地区(堺、東予)に集約します。一連の休止後、全社でめっき3ライン、塗装6ラインの体制になります(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞11月4日付1面)。
【なぜ重要?】海外では製鉄所の構内まで入り込んで加工・販売を握り、国内では需要の縮小に合わせて設備を畳む──日本製鉄グループの「海外で攻め、国内で締める」動きを象徴する2本です(この整理は筆者の見立てです)。日本製鉄はNSSKを欧州の中核拠点と位置付け、電気炉の導入も決めています(日本製鉄の決算資料、日刊産業新聞11月2日付1面)。日刊鉄鋼新聞は解説記事で、欧州では鉄鋼業の事業売却が相次いでおり、日本勢には好機だと伝えています(11月2日付1面)。
4. 値上げは条鋼・特殊鋼・土木へ──JFE条鋼3,000円、三菱製鋼1万円、日本製鉄は輸送エキストラ
【何が起きた?】先週までの電炉・厚板に続き、今週は条鋼・特殊鋼・土木用鋼材で値上げの発表がありました。いずれも11月4日の発表です。
| 会社 | 品種 | 内容 | 時期・累計など |
|---|---|---|---|
| JFE条鋼 | 店売り向け形鋼類(山形鋼、溝形鋼、H形鋼、平鋼、不等辺山形鋼) | トン3,000円の値上げ | 11月契約から。昨年10月以降の累計は2万円前後 |
| 三菱製鋼(5632) | 特殊鋼棒鋼の全品種(国内向け・輸出向け) | トン1万円の値上げ | 11月の販売分から。今年度の累計は2万円 |
| 日本製鉄(5401) | 鋼矢板・鋼管杭などの土木用鋼材 | 輸送関連(地域)エキストラをトン1,000〜5,000円→2,000〜7,000円に引き上げ | 11月契約から。改定は約2年半ぶり |
【なぜ重要?】日本製鉄の改定は、鋼材そのものではなく運ぶ費用の値上げです。大型で長い土木用鋼材は積載や運行の条件が厳しく、輸送能力の確保が課題になっています。同社はドライバーの労務費や燃料費などの上昇を背景に挙げています。JFE条鋼は、鉄スクラップが夏場に一時下がったものの足元で高い水準にあるとして、なお価格を見極めつつ転嫁を進める構えです(日刊鉄鋼新聞)。値上げの焦点は、原料高だけでなく人件費・物流費の転嫁にも広がっています(この一文は筆者の見立てです)。
5. 電炉の決算に原料高の重さ──大阪製鉄は赤字、共英製鋼は45%減益、大和工業は米国で上方修正
| 会社 | 上期の経常損益(前年同期) | 通期の経常損益予想(修正前) | ポイント |
|---|---|---|---|
| 大阪製鉄(5449) | ▲27.58億円(▲13.24億円) | ▲11億円(10億円) | 鉄スクラップ高に対して値上げの浸透が遅れ、採算が悪化。売上高予想も1,000億円→910億円に |
| 共英製鋼(5440) | 59.29億円(前年同期比▲30.1%) | 90億円(140億円) | 通期は前期比44.5%減。国内の建設用鋼材の需要低迷と鉄スクラップ高が響く。年間配当70円は据え置き |
| 大和工業(5444) | 460.71億円(前年同期比+65.0%) | 955億円(870億円) | 米国の持分法適用会社が好調。過去最高だった2024年3月期の992億円に迫る。年間配当も増配 |
【なぜ重要?】同じ電炉でも、国内中心か、米国で稼げるかで差がはっきりしました。大和工業は国内の鉄鋼事業が厳しいなか、米国の持分法適用会社の業績が想定を上回り、国内の低調を補っています。一方、大阪製鉄は日本製鉄の子会社で、11月4日には日本製鉄が応募する形で280万株の自社株公開買い付け(1株2,100円、総額58億8,000万円を上限、期間は11月5日〜12月3日)を決めました。買い付け後も日本製鉄の議決権比率は51.0%で、子会社の関係は維持されます(日本製鉄の発表、日刊鉄鋼新聞11月5日付1面)。電炉の苦しい事情は深読み解説|電炉は本当に赤字なのか、各社の銘柄情報は大和工業(5444)・大阪製鐵(5449)もどうぞ。
6. 今週の短信──粗鋼シェア、平鋼需要、東京製鉄の「ほぼゼロ」ほか
- 2025年度の粗鋼シェア、高炉3社で76%に上昇──日刊鉄鋼新聞の調査で、2025年度の国内粗鋼生産は8,032万トンと、かろうじて8,000万トン台を維持。シェアは日本製鉄が42.2%(前年度41.3%)、JFEスチールが26.6%(同26.5%)、神戸製鋼所が7.2%(同7.2%)だった(日刊鉄鋼新聞11月6日付1面)
- 普通平鋼の上期需要は2.9%減──普通鋼電炉メーカー6社・7事業所の国内向け出荷は、月間4万9,500トン前後で前年同期比2.9%(1,500トン)減の模様。建設の遅れなどが響いたが、下期は回復の期待も(日刊産業新聞11月4日付1面)
- 東京製鉄の低CO2鋼材「ほぼゼロ」、船橋の商業施設に3,500トン──三井不動産が千葉県船橋市で進める「三井ショッピングパークららぽーとTOKYO-BAY」北館建て替え計画(2期)に採用。2024年7月の販売開始以来、最大の受注案件という(日刊鉄鋼新聞11月5日付1面)
- 東京製鉄、関東で製品と原料を同じトレーラーで往復──片荷輸送を減らして実車率を高める取り組みを、2027年度にも始める。製品を運んだ帰り便で鉄スクラップを運び、CO2の削減にもつなげる(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞11月2日付1面)
- 高炉3社の上期決算 → 日本製鉄は上方修正、JFEは下方修正(第1章)。神戸製鋼所は11月10日の予定です
- ステンレスのAD関税開始後の輸入 → 課税が始まったばかりで、統計で確認できるのはまだ先です
- 関東鉄源協同組合の輸出入札(11月11日予定) → 来週に持ち越しです
7. 今週の用語解説
直接還元鉄(DRI)とは
高炉を使わず、鉄鉱石を還元ガスで還元してつくる鉄のことです。現在の商用炉は天然ガスを還元材に使うのが主流で、天然ガスでは還元の過程でCO2が出ます。還元材を水素に置き換えると、製鉄プロセスからのCO2を大幅に減らせます(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞11月5日付)。
在庫評価差(棚卸資産評価差)とは
原料価格が上がると、安いときに仕入れた在庫を使うことで見かけ上の利益が生まれ、下がると逆に損失が出ます。この差のことです。本来の稼ぐ力を見るため、日本製鉄は「実力ベース事業利益」、JFEは「棚卸資産評価差等除き」として、これを除いた数字を示しています。
輸送エキストラ(地域エキストラ)とは
鋼材の基準となるベース価格に、条件に応じて上乗せする料金をエキストラと呼びます。輸送エキストラは、納入する地域などによって変わる輸送費の分です。今回の日本製鉄の改定は、ベース価格とは別にこの部分を引き上げるものです。
8. まとめ──今週の3行サマリ
- 高炉の決算で明暗──日本製鉄はUSスチールの好調で再上方修正、JFEは豪雨・台風で下方修正。国内の苦戦は共通
- 日本製鉄が水素100%の還元鉄に成功──低品位鉱石で累計1,000トン超、2040年ごろの実機化技術の確立へ
- 値上げは物流費にも、電炉は明暗──JFE条鋼・三菱製鋼が値上げ、大阪製鉄は赤字、大和工業は米国で上方修正
- 11月10日予定の神戸製鋼所の上期決算と、高炉3社の下期の値上げの進み具合
- 11月11日予定の関東鉄源協同組合の輸出入札で、鉄スクラップの価格がどう動くか
- JFEの千葉地区の復旧の進み具合と、下期の生産への影響
海外で稼げる会社と国内の逆風を受ける会社の差が、決算の数字にはっきり表れた1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:日本製鉄「2026年度第2四半期決算について」・「業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年11月5日)、「当社子会社による自己株式の公開買付け及び当社による応募に関するお知らせ」(11月4日)、JFEホールディングス「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」・「2026年度第2四半期決算 インベスターズ・ミーティング」資料(11月6日、いずれもPDF原本を確認)、日刊鉄鋼新聞(日鉄物産・東京製鉄の輸送〔11月2日付1面〕、日鉄鋼板・大和工業〔11月4日付1面〕、日本製鉄の水素還元鉄・JFE条鋼・三菱製鋼・日本製鉄の輸送エキストラ・東京製鉄の「ほぼゼロ」・大阪製鉄のTOB〔11月5日付1面〕、日本製鉄の決算とCFOの会見・粗鋼シェア調査〔11月6日付1面〕)、日刊産業新聞(日鉄物産・共英製鋼・東京製鉄の輸送〔11月2日付1面〕、日鉄鋼板・大和工業・平鋼需要〔11月4日付1面〕、日本製鉄の水素還元鉄・JFE条鋼・三菱製鋼・輸送エキストラ・大阪製鉄〔11月5日付1面〕、日本製鉄の決算〔11月6日付1面〕)、Yahoo!ファイナンス(株価、11月6日終値)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。数値は各記事・各発表の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。


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