「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。
本記事は日刊産業新聞・日刊鉄鋼新聞の紙面(2026年6月29日〜7月3日付)を主な情報源に、日銀・各社発表・Web報道でクロスチェックした6月最終週〜7月第1週の鉄鋼トピックス完全版です。今週の主役は「日鉄の厚板追加値上げ(累計1.5万円)」と「スクラップ需要40年ぶり低水準」。値上げと構造変化が同時進行する、鉄鋼の「今」が詰まった2週間でした。
1. 日本製鉄、厚板を追加5,000円値上げ──今年の累計は1万5,000円に
まず価格面の大ニュース。日本製鉄は国内厚板の全分野で、7月新規引き受け分(9月出荷相当分)からトン5,000円の追加値上げを打ち出しました(日刊産業新聞 6月29日付1面)。今年4月引き受け分からの引き上げと合わせ、累計値上げ幅は1万5,000円に達します。
背景は根深いコスト高です。中東情勢を受けた原油・LNG・バンカー燃料などエネルギーコスト、労務費、輸送費、資機材の上昇に加え、戦争リスク保険料や迂回ルートによる海上輸送コストの高止まりが常態化。紙面によれば、4月からの1万円の値上げでも「2022年のウクライナ侵攻時からのコスト上昇分をカバーしきれない」状況で、中東の石油精製・LNG関連インフラの復旧には3〜5年かかる見込みとも紹介されています。「値上げは一過性でなく構造的」──これが厚板市場の現在地です。
📌 ここはチェック
厚板は造船・建機・橋梁の基幹材料。造船業界にとっては船価コストの根っこであり、造船側で船価が強含む一因もここにあります(造船の今週号参照)。日本製鉄という会社の全体像は日本製鉄(5401)銘柄まとめでどうぞ。
2. 「鉄スクラップの日」特集──国内需要は40年ぶり低水準、でも電炉買値は10年前の2倍
7月1日は日本鉄リサイクル工業会が制定する「鉄スクラップの日」。日刊産業新聞の特集(6月30日付1面)が、スクラップ市場の構造変化を鮮やかに描き出しました。
- 2025年の国内鉄鋼メーカーのスクラップ需要は3,439万トン──コロナ禍の2020年を除けば約40年ぶりの低水準(3,500万トン割れは2年連続)。国内粗鋼減産がそのまま表れた形
- 一方で電炉メーカーの買値(東名阪3地区平均・H2)は年平均トン約4.1万円と、10年前の約2倍の水準に。カーボンニュートラル(電炉のCO2は高炉の約4分の1)で製鋼原料としての注目が高まり、円安による輸出価格上昇が国内相場を押し上げる構図
- 鉄スクラップは経済安全保障上の重要な「国産二次資源」として国が位置づけ、国内循環の促進を図る対象に
足元の市況も整理しておきましょう。日本鉄源協会まとめの6月第5週・3地区平均市況(H2・メーカー炉前)は5万300円で前週比横ばい。地区別では関西が4万9,300円(+300円)、関東5万2,200円・中部4万9,600円は変わらず(日刊鉄鋼新聞 7月2日付)。ただし関東湾岸では、雨期入りした東南アジアの需要減で輸出価格が下落し、東京製鉄の東京湾岸SYが6月26日に買値を500〜1,000円引き下げています(日刊産業新聞 6月29日付)。
⚠️ この構図の意味
「量は40年ぶりの少なさ、価格は10年前の2倍」──つまりスクラップは“縮む市場”ではなく“奪い合う資源”に変わったということ。電炉転換を進める高炉大手も加われば、争奪はさらに激しくなります。電炉の代表格は東京製鐵(5423)・大和工業(5444)の銘柄まとめでどうぞ。
3. 日鉄・橋本会長、成長戦略会議で「国内投資は予見性がすべて」──グリーン購入法にGXスチール追加
政策面では、政府が6月30日の成長戦略会議(第5回)でまとめた「日本成長戦略」原案(戦略17分野を軸に2040年度までに官民370兆円超の国内投資を目指す)に注目。有識者委員として参加する日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは、一貫して「国内投資の予見性向上が不可欠」と訴えました(日刊鉄鋼新聞 7月2日付)。
- 鉄鋼業は現在、高炉から大型電炉へのプロセス転換プロジェクトが進行中。GXに関して橋本氏が挙げた論点は①労働時間規制の緩和②確固たる電力政策③企業統治(ガバナンス)のあり方の再考
- グリーン購入法の対象(物品・サービス)にGXスチールが追加され、今年度からは公共工事での採用に向けた試行プロジェクトがスタート。「公共調達でグリーン素材採用が実践的に進む」段階へ
- 中国の安値輸出には「市場の形成が課題」とし、通商政策の必要性にも言及。株主還元に偏らず人と設備への投資とのバランス、グリーン材のコストアップを社会全体で吸収する仕組みも訴え
なお7月1日公表の日銀短観(6月調査)では、大企業製造業の景況感が5四半期連続で改善する一方、鉄鋼は「悪化」が続くと報じられました(同 7月2日付)。AI・半導体がけん引する回復から素材が取り残される「業種間格差」の中で、値上げ・政策・投資の三正面が動いています。背景の整理は鉄鋼業界の将来性 2026年最新版をどうぞ。
4. 日鉄の個人株主比率が33.6%に急上昇──株式分割の効果くっきり
投資家に刺さるデータも出ました。日本製鉄の「個人その他」株主比率は2026年3月末で33.6%と、4年前(23.7%)から約10ポイント上昇(日刊鉄鋼新聞 7月1日付)。2025年10月1日実施の株式分割(1→5)で最低投資額が下がった効果が鮮明です。
- 株主構成は個人33.6%・金融機関29.3%・外国法人等24.0%など。個人が最大勢力に
- 政策保有株式(持ち合い株)は2013年度以降で実質8割程度縮減し、26年3月末で5,700億円(うち換金性のある上場株式は4千億円台)。持ち合い解消で放出された株の受け皿にも個人がなった格好
- JFEホールディングスの個人比率も約31%へ上昇。鉄鋼大手が「個人株主の銘柄」に変わりつつある
📌 ここはチェック
個人株主98万人時代の日鉄は、配当・株主還元の意味がこれまで以上に重くなります。分割後の配当は年24円(前期)。USスチール買収の全経緯と合わせて押さえておきたい変化です。
5. 東京製鉄、九州工場で「乾電池リサイクル」今夏開始──電炉が地域の資源循環拠点に
電炉×循環経済の面白いニュースです。東京製鉄は九州工場(北九州市若松区)で、使用済み乾電池の処理事業を今夏から開始します(日刊鉄鋼新聞 7月1日付)。2016年に許可を得た岡山工場に次ぐ2拠点目で、主に西日本(岡山工場より西側)の自治体・事業所から受け入れます。
- 対象はマンガン乾電池とアルカリ乾電池(充電式・リチウムイオン電池は対象外)。受け入れ・処理は8月末〜9月に開始
- 選別後、電気炉の高熱を活用して溶解し、乾電池に含まれる鉄・マンガンを鉄鋼製品の原料として再資源化。原料スクラップの一部を廃乾電池に置き換えて投入する
- 溶融時のダストは既設の集塵機で捕集し、大防法・ダイオキシン類対策特措法の排出基準を順守
グリーン鋼材でも動きがあり、東京製鉄のCO2排出「ほぼゼロ」を採用したHグレード製品が、メタルテックの本社建て替えに使用されることになりました(先の四国初案件に続く採用拡大、日刊鉄鋼新聞 7月3日付)。電炉が「脱炭素の受け皿」から「地域の資源循環拠点」へと役割を広げています。
6. その他、今週の小ネタ
- 日鉄のフェロクロム7〜9月積み価格が6四半期ぶり値下げ(7月3日付)──値上げが続いたステンレスのコスト環境に一服感。「原料安×販価維持」ならマージン改善へ
- 神戸製鋼、量子コンピューター技術でスタートアップと連携(7月3日付)──材料開発・生産工程最適化への活用を検討。鉄鋼×量子の先駆け
- JFEスチール、高炉スラグ活用の低炭素コンクリートを量産化(7月2日付)
- 神戸製鋼の東京本社が高輪ゲートウェイシティで業務開始(7月2日付)
- 阪和興業・中川社長──新中計(2026〜28年度)で海外M&A積極展開・投資枠を3年1,600億円に倍増、鉄鋼取扱量1,700万トン目標(6月30日付インタビュー)
- 芝浦シヤリング、加工賃改定──ベース引き上げ+エキストラ改定の定着へ(6月30日付)
7. 今週の用語解説──ニュースを読み解くキーワード
H2(鉄スクラップ)・3地区平均とは
H2は鉄スクラップの代表的な等級(ヘビースクラップ)。「3地区平均」は関東・中部・関西の電炉メーカー購入価格(炉前)の平均で、国内スクラップ相場の体温計として最もよく参照されます。今週は5万300円で横ばいでした。
政策保有株式(持ち合い株)とは
取引関係の維持などを目的に企業同士が持ち合う株式。ガバナンス改革で縮減が進み、日鉄は13年度以降で実質8割程度を縮減。売り出された株を個人投資家が受け止め、株主構成の交代が進んでいます。
グリーン購入法とは
国や自治体が環境配慮製品を率先して調達するよう定めた法律。対象にGXスチール(グリーン鋼材)が追加されたことで、公共調達がグリーン鋼材の「確実な買い手」になる道が開けました。今年度から公共工事での試行が始まります。
業況判断DI(日銀短観)とは
景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いた指数。年4回の日銀短観で公表され、業種ごとの体感景気を比較できます。今回は製造業全体が改善する中で鉄鋼の弱さが際立ちました。
まとめ──この2週間の3行サマリ
- 日鉄が厚板を追加5,000円上げ、今年の累計1.5万円──中東起点のエネルギー・物流コスト高は構造的で、値上げは続く
- スクラップは「量40年ぶり低水準×価格10年前の2倍」──需要3,439万トンに縮む一方、脱炭素で奪い合う資源に。3地区平均は5万300円横ばい
- 構造変化が同時進行──成長戦略370兆円と橋本会長の「予見性」提言、グリーン購入法にGXスチール、日鉄の個人株主33.6%、東鉄の乾電池リサイクル開始
👀 来週以降の注目──①厚板・形鋼など7月値上げの需要家への浸透、②中・台ステンレス暫定AD課税下の輸入動向(本調査は11月21日まで)、③フェロクロム値下げ後のステンレスマージン、④スクラップ輸出(東南アジア雨期)と湾岸価格。
値上げで足元を守りながら、資源・株主・制度の構造が静かに入れ替わった2週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。
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本記事の出典:日刊産業新聞(2026年6月29日・30日付:厚板追加値上げ/鉄スクラップの日特集・需給40年ぶり低水準・電炉買値10年前の2倍/関東湾岸SY買値下げ/阪和興業中計/芝浦シヤリング)、日刊鉄鋼新聞(7月1日〜3日付:日鉄株主構成/東京製鉄 乾電池処理・「ほぼゼロ」採用/橋本会長・成長戦略/短観/スクラップ3地区平均/フェロクロム/神鋼量子・高輪/JFE低炭素コンクリ)※ユーザー提供の紙面切り抜きを直接確認、日本銀行「短観(2026年6月調査)」、各社発表。数値は紙面掲載時点のものです。
⚠️ 注意点
本記事は業界動向の情報整理を目的としたものであり、特定企業への投資や取引を推奨するものではありません。


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