ふだんは世界の市場で受注を奪い合う今治造船・新来島どっく・日本シップヤード(NSY)が、同じ船を一緒に設計し、造ることになりました。2026年10月27日、日本郵船・川崎汽船・JERAと造船4社の計7社が、2030年竣工のアンモニア燃料自動車船4隻と燃料供給船1隻の計画を発表したのです。なぜライバル同士が手を組むのか。なぜ船だけでなく、燃料の調達から供給まで丸ごと整えるのか。そして2030年までに残る壁は何か──各社の発表と記者会見の発言から深読みします。
本記事は日本郵船のニュースリリース(10月27日ほか)、JERAの発表、日本海事新聞の記者会見の記事・発言要旨などをもとに、今週のニュースを深掘りする解説記事です。
※本記事は2026年10月31日時点の公開情報に基づき作成しています。数値は各資料の公表時点のもので、筆者の解釈・推測には「見立て」と明示します。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 何が起きたのか──燃料の調達から運航までを一体で整える国内初の計画
- 2. 深読み①:なぜ船だけでは進まないのか──需要と供給網の鶏と卵
- 3. 深読み②:ライバル造船所が手を組んだ理由
- 4. 深読み③:日本郵船が積み上げてきた世界初の実績
- 5. 深読み④:2030年までに越えるべき4つの壁
- 6. 業界ウォッチャーの注目ポイント
- 7. 今回の用語解説
- 8. まとめ──このニュースをどう覚えておくか
1. 何が起きたのか──燃料の調達から運航までを一体で整える国内初の計画
- 船──アンモニア燃料自動車船4隻(日本郵船・川崎汽船が2隻ずつ)と、アンモニア燃料供給船(バンカリング船)1隻。いずれも2030年に竣工予定
- 燃料──JERAがインドなどからグリーンアンモニアを調達し、碧南火力発電所(愛知県碧南市)に隣接するアンモニア受け入れ基地に、船への出荷設備を新設
- 供給──郵船と川汽が折半出資する燃料販売の合弁会社が、名古屋港・三河港を中心に、供給船から自動車船へ船どうしで燃料を補給(STS)
- 運航──太平洋航路をアンモニア燃料だけで航行できる燃料タンクを備え、トヨタ自動車をはじめとする顧客の完成車輸送に投入
出典:日本郵船ニュースリリース「アンモニア燃料自動車専用船4隻の建造・運航およびアンモニアバンカリング事業の商用化について」(2026年10月27日)
| 会社 | 役割 |
|---|---|
| JERA | グリーンアンモニアの調達、碧南の出荷設備の整備 |
| 日本郵船(9101) | 自動車船の運航、供給船の保有・運航、燃料販売の合弁会社への出資 |
| 川崎汽船(9107) | 自動車船の保有・運航、燃料販売の合弁会社への出資 |
| 新来島どっく | 自動車船の基本設計を主導し、設計・建造に参加 |
| 今治造船 | 自動車船の設計・建造 |
| 日本シップヤード(NSY) | 自動車船の設計・建造 |
| 旭洋造船 | 供給船(1万立方メートル型)の設計・建造 |
主機関は、ジャパンエンジンコーポレーション(6016)が10月29日に、純国産のアンモニア燃料エンジン「6UEC60LSJA-HPSCR」4台を受注したと発表しました(日本海事新聞電子版)。日本郵船の曽我貴也社長は会見で、「アンモニアの可能性を実証から社会実装へと進めていく、重要な一歩となる」と語っています。燃料の調達から出荷基地、供給船、船どうしの補給、自動車船の運航までを一体で整える計画について、日本海事新聞は国内初の包括的プロジェクトと伝えています(日本海事新聞10月28日付1面)。
2. 深読み①:なぜ船だけでは進まないのか──需要と供給網の鶏と卵
今回の計画で目を引くのは、船を造る話よりも、燃料をどう用意するかの話が大きいことです。アンモニア燃料の船を造っても、燃料を売ってくれる港がなければ走れません。逆に、燃料の供給設備をつくっても、使う船がなければ商売になりません。新しい燃料には、この鶏と卵の問題がつきまといます。
曽我社長は会見で「アンモニア燃料の普及には技術だけでなく、需要の創出が不可欠だ」と述べ、LNG燃料自動車船を導入した経験から、まず需要をつくり、仲間をつくることが普及につながるとの考えを示しました(日本海事新聞10月28日付2面)。川崎汽船の五十嵐武宣社長も「アンモニアの普及が進まなければ生産量も上がらずコストも下がらない」と指摘しています(同1面)。
そこで7社は、需要(船と荷主)と供給(燃料の調達・出荷・補給)を同時に、一つの地域でそろえる道を選びました。舞台が中部地区なのは、JERAの碧南火力発電所にアンモニアの受け入れ基地があるからです。JERAの奥田久栄社長は、碧南で燃料の20%を石炭からアンモニアに切り替えるプロジェクトを進めており、2029年度に商用運転を始める予定だと説明しています(同2面)。発電用に整える受け入れ基地を、船の燃料の出荷拠点にも使うという組み立てです(この整理は筆者の見立てです)。
燃料の調達も具体化しています。JERAはインドのAM Greenと、インドで製造するグリーンアンモニアを年約7万トン、5年間調達する拘束力のある基本合意を結んだと、両社が10月27日に発表しました(Business Wire配信の両社発表)。荷主の側では、曽我社長が、自動車メーカーは製造時のCO2だけでなく、輸出の物流で出るスコープ3のCO2削減にも大きな注目をしていると説明しています(日本海事新聞10月28日付1面)。
3. 深読み②:ライバル造船所が手を組んだ理由
今治造船、新来島どっく、NSYは、ふだんは同じ船主の注文を争う関係です。NSYは2021年1月に、今治造船(51%)とジャパンマリンユナイテッド(JMU、49%)が共同出資して発足した商船の設計・営業会社で、今治造船グループの一員です(各社の発足時の発表に関する報道)。
新来島どっくの森克司社長は会見で、今治造船・NSYとは世界市場で切磋琢磨する関係にあるとしたうえで、共創の道を選んだ理由を「本プロジェクトはシェア争いではなく、ネットゼロ実現を後押しする取り組みだからだ」と説明しました。単一のメーカーでは解決が難しい設計・建造・脱炭素の課題に、それぞれの強みを生かして挑むとし、すでに船社を含む約50人が集まって1週間にわたり本船の仕様を協議したことも明かしています(日本海事新聞10月28日付2面)。
背景にあるのは、中国・韓国との競争です。今治造船の檜垣幸人社長は、世界の造船市場で中国・韓国勢の存在感が高まるなか、「これまで培ってきた高い品質や技術力だけに頼っていては世界の競争の中で存在感を示すことができない」と危機感を示し、突破口として「日本の海運・造船・舶用に広がる海事産業の総合力が世界で戦っていく上で大きな強み」と語りました(日本海事新聞10月28日付1面)。
世界の新造船の受注残の64%を中国が持つ時代に、日本の造船所が1社ずつ価格で勝負するのは簡単ではありません(受注残の数字は10月第4週の必修ニュース参照)。日本の海運会社・エネルギー会社・エンジンメーカーと組み、新しい燃料の船を、燃料の供給網ごと日本から出す──価格以外の土俵で勝負しようとする動きと読めます。檜垣社長は、アンモニア燃料船の建造について「大きな障壁はないと思っている」とも話しています(後段の引用は日本海事新聞10月28日付1面、前段は筆者の見立てです)。
国が掲げる建造能力の倍増の議論は建造能力2倍・1,800万総トン計画の深読み解説で、日本の主要造船所の比較は造船会社ランキングで詳しく解説しています。
新燃料船の設計や建造は、これからの造船業で最も人が求められる分野の一つです。造船・鉄鋼業界は技術力が高く、腰を据えて働ける企業が多い一方、業界研究や自分に合う社風の見極めが転職・就職成功のカギになります。新卒・若手なら就活クチコミと選考体験が豊富なワンキャリア、大学院生(修士・博士)・理系学生なら院生特化のスカウト・就職相談サービスアカリク、社会人の転職なら専門のキャリアアドバイザーに相談できるユメキャリ転職のようなサービスを併用すると、ミスマッチを避けやすくなります。
4. 深読み③:日本郵船が積み上げてきた世界初の実績
今回の計画は、突然出てきたものではありません。日本郵船は数年がかりで、アンモニア燃料船の技術と運航の経験を積み上げてきました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年1月 | アンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC、4万立方メートル型)の建造決定を発表。建造はJMU有明事業所、主機はジャパンエンジンコーポレーション。NEDOのグリーンイノベーション基金事業の一環 |
| 2024年7月 | アンモニア燃料タグボート「魁(さきがけ)」に、タンクローリーから燃料アンモニアを補給(Truck to Ship方式。同社は世界初としている) |
| 2026年9月17日 | JMU有明事業所の岸壁で、アンモニア輸送船「松栄丸」からAFMGCへ、船どうしで燃料アンモニアを補給(Ship to Ship方式。同社は世界初としている) |
| 2026年11月(予定) | AFMGCが竣工予定 |
| 2030年(予定) | アンモニア燃料自動車船4隻と供給船1隻が竣工予定(今回の計画) |
曽我社長は会見の冒頭、世界初の商用アンモニア燃料タグボートの開発・運航を通じて、アンモニア燃料を安全に使う技術と運航のノウハウを検証してきたと説明しました(日本海事新聞10月28日付2面)。タグボート→ガス運搬船→自動車船と、小さな船から順に大きな船へ進めてきた流れがよく分かります。AFMGCの建造を担うJMUは今治造船グループの会社で、その経験が今回の自動車船にも生きる形です(後段は筆者の見立てです)。
エンジンを手がけるジャパンエンジンコーポレーションの業績や株価の見方はジャパンエンジン(6016)の銘柄ガイドで解説しています。
5. 深読み④:2030年までに越えるべき4つの壁
曽我社長は「アンモニア燃料船の建造技術はかなり確立されており、次の課題は全世界での供給ネットワークの構築と、アンモニア燃料を取り扱える船員の育成だ」と語っています(日本海事新聞10月28日付1面)。会見の発言や各社の発表から、残る壁を4つに整理します。
| 壁 | 中身 |
|---|---|
| ① 商業化の時期とコスト | 曽我社長は、本格的な商業化が2030年代のどの時点になるかを見極め、それまではLNG燃料船をブリッジングソリューションとしてつないでいく考え。商業化と大量生産ができる状態になれば、運航船をアンモニア燃料船に置き換えていくとしている |
| ② 世界の供給網 | 中部の拠点だけでは、世界を回る船の燃料は足りない。海外の港でもアンモニアを補給できる網が必要 |
| ③ 船員の育成 | 毒性のある燃料を安全に扱える船員を育てる必要がある |
| ④ 安全設計 | アンモニアには毒性と腐食性があるため、自動車船の船体は、漏れの防止・検知、漏れたときの除害など、何重もの安全対策を取り入れた設計を採用する |
市場の現実も見ておきましょう。海事調査会社アルファライナーによると、世界のコンテナ船の発注残(1,500万TEU超)のうち、LNG2元燃料船が56%を占め、メタノール2元燃料船の新規発注は今年1月の2隻にとどまっています(日本海事新聞10月29日付1面)。いまの新造船の主流はLNGで、アンモニアはその次の世代を狙う燃料という位置づけです。今回の7社の計画は、その次の世代の勝負に、日本勢が早めに名乗りを上げたものと言えます(この段落の後段は筆者の見立てです)。LNG燃料船と国産LNG船の動きはLNGの深読み解説で詳しく解説しています。
6. 業界ウォッチャーの注目ポイント
- AFMGCの竣工(2026年11月予定)──アンモニア燃料での外航の運航実績が積み上がるか
- 今治造船のアンモニア燃料バルカー──檜垣社長は、ニューカッスルマックス型バルカーの検討と契約に向けた交渉を進めていると説明(日本海事新聞10月28日付1面)。自動車船以外にも広がるか
- JERA碧南の燃料転換(2029年度に商用運転予定)──発電用と船舶用の需要がそろい、アンモニアの調達コストが下がるか
- 海外の港での供給網づくり──太平洋航路の相手先でも補給できる体制が整うか
- 中国・韓国の造船所の動き──アンモニア燃料船の受注競争がどこまで広がるか
7. 今回の用語解説
■ グリーンアンモニア
太陽光や風力などの再生可能エネルギーでつくった水素から製造するアンモニア。製造の段階でもCO2をほとんど出さないため、脱炭素の燃料として期待されています。
■ AFMGC
Ammonia-Fueled Medium Gas Carrierの略で、アンモニアを燃料にして走る中型のガス(アンモニア)運搬船。日本郵船がJMU有明事業所で建造している4万立方メートル型の船を指します。
■ スコープ3
企業のCO2排出量の数え方の区分の一つ。自社の工場などからの直接の排出(スコープ1)や、使った電力に伴う排出(スコープ2)ではなく、原材料の調達や製品の輸送など、取引先を含むサプライチェーン全体で出る排出を指します。自動車の輸出で使う船の排出も、自動車メーカーにとってはスコープ3です。
■ ブリッジングソリューション
本命の技術が実用化されるまでの間をつなぐ手段のこと。海運では、アンモニアや水素などのゼロエミッション燃料が本格的に使えるようになるまで、CO2を減らせるLNG燃料船でつなぐという意味で使われます。
8. まとめ──このニュースをどう覚えておくか
- 7社で燃料から船まで一体整備──2030年にアンモニア燃料自動車船4隻と供給船1隻、舞台は中部の碧南・名古屋・三河
- 船だけでは進まない新燃料──需要と供給網を同時にそろえるため、エネルギー・海運・造船が組んだ
- ライバル造船所が共創──今治造船・新来島どっく・NSYが、中国・韓国との競争を見据えて同じ船を設計・建造
- 日本郵船はタグ→ガス船→自動車船と段階的に──AFMGCは2026年11月竣工予定
- 次の壁は燃料の供給網と船員──当面の主流はLNG、アンモニアは次の世代の燃料
船は造れる、次は燃料と人──今回の会見は、日本の海事産業がオールジャパンで次の世代の船に挑む宣言のように聞こえました。2030年、中部の港でアンモニアを積んだ自動車船を見られる日が楽しみです。
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本記事の出典:日本郵船ニュースリリース(「アンモニア燃料自動車専用船4隻の建造・運航およびアンモニアバンカリング事業の商用化について」2026年10月27日、「世界初、アンモニア燃料船へShip-to-Ship方式で燃料アンモニア補給」2026年9月18日、Truck to Ship方式の補給〔2024年7月17日〕、アンモニア燃料アンモニア輸送船の建造決定〔2024年1月25日〕)、JERAの発表(7社のプロジェクト、2026年10月27日)、JERAとAM Greenの共同発表(Business Wire配信、2026年10月27日)、日本海事新聞(アンモニア燃料船プロジェクト〔10月28日付1面〕・会見の発言要旨〔同2面〕、コンテナ船の発注残〔10月29日付1面〕、J-ENGのアンモニア燃料エンジン受注〔電子版、11月2日付2面掲載〕)、日本シップヤードの出資比率に関する報道(2021年1月)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。
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