「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年10月19日〜10月23日)は、「値上げの第2波が厚板・H形鋼・電炉製品まで一気に広がった週」でした。日本製鉄は厚板を11月契約からトン5,000円の追加値上げ、H形鋼も4カ月ぶりに値上げ。東京製鉄も11月契約で全鋼材を3,000円上げました。一方で、日本の鉄鋼輸出は上期に4%減り、年間では26年ぶりに2,900万トンを割り込む可能性が出ています。造船向けでは、日本製鉄が造船ブロックの加工能力の拡大を検討していることも明らかになりました。
本記事は2026年10月24日時点の公開情報(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の紙面、各社の決算短信ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年10月19日付〜10月23日付の紙面、東京製鐵の決算短信(10月23日)ほかの公開情報に基づき作成しています。数値は各記事の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. 日本製鉄、厚板を11月契約から5,000円追加値上げ──今年度累計2万円、H形鋼も4カ月ぶり値上げ
- 2. 電炉・建材も値上げ一色──東京製鉄は全鋼材3,000円、日鉄建材は累計2.5万円
- 3. 東京製鐵の上期決算──営業赤字35億円も、通期は黒字予想を維持
- 4. 日本製鉄が造船ブロック加工の能力拡大を検討──造船用厚板は2035年に1.5倍も
- 5. 上期の鉄鋼輸出は4%減の1,437万トン──粗鋼の7〜9月は2,000万トン割れ
- 6. 今週の短信──中国市況の続落、米クリフスの供給削減、中山製鋼の操業再開ほか
- 7. 今週の用語解説
- 8. まとめ──今週の3行サマリ
1. 日本製鉄、厚板を11月契約から5,000円追加値上げ──今年度累計2万円、H形鋼も4カ月ぶり値上げ
【何が起きた?】日本製鉄(5401)は、国内向けの厚板について、ひも付き・店売りの全分野で11月新規契約分(おおむね2027年1月出荷分)から、現行価格に対してトン当たり5,000円の追加値上げを実施する方針を固め、需要家や流通各社への申し入れを始めます。値上げ幅は率にすると3〜4%です。同社は今年4月契約分からトン1万円、7月契約分からさらに5,000円の値上げを打ち出しており、3回目となる今回を合わせた今年度の累計値上げ幅はトン2万円になります(日刊鉄鋼新聞10月23日付1面)。
追加値上げの主な理由は、原料炭などの主原料価格の高騰と、石油由来の副資材を中心とした諸コストの高まりです。日刊鉄鋼新聞によると、これまで打ち出した累計1万5,000円の値上げは足元で浸透し、ひも付き価格も個社ごとの交渉が進んでおおむね浸透が見えたことから、このタイミングで追加値上げを決めました。コストアップの累計は2万円を上回るとみられるものの、まずは確実に浸透できる見込みの5,000円の幅にしたとしています(同)。
同社はH形鋼も値上げします。店売り向けは10月契約分(11月ロール分)からトン3,000円、物件向けは5,000円を引き上げ、いずれも4カ月ぶりの値上げです。今年1月以降の累計はそれぞれ1万8,000円、2万円になります(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月23日付1面)。
| 日本製鉄の品種 | 今回の値上げ | 時期 | 累計 |
|---|---|---|---|
| 厚板(ひも付き・店売りとも) | トン5,000円 | 11月新規契約分から | 今年度2万円 |
| H形鋼(店売り) | トン3,000円 | 10月契約(11月ロール)分から | 今年1月以降1万8,000円 |
| H形鋼(物件向け) | トン5,000円 | 同上 | 今年1月以降2万円 |
| (参考)薄板 | トン5,000円 | 10月引受分から | 今年度2万円 |
【なぜ重要?】先々週お伝えした薄板に続き、厚板とH形鋼でも追加値上げがそろいました。厚板は造船と建築・橋梁が主な使い道で、とくに造船では船価に直接響きます。日刊鉄鋼新聞によると、国内の厚板需要は全体として緩やかな回復基調が続いており、造船や建築関連を中心に需要が高まっていることも値上げの背景です(この段落の後段は筆者の見立てを含みます)。日本製鉄の業績や株価の見方は日本製鉄(5401)の銘柄まとめで解説しています。
2. 電炉・建材も値上げ一色──東京製鉄は全鋼材3,000円、日鉄建材は累計2.5万円
【何が起きた?】電炉大手の東京製鉄(5423)は10月19日、11月契約の鋼材販売価格を全製品で前月比トン3,000円引き上げると発表しました。値上げは2カ月連続で、全品種の値上げは7月契約以来、4カ月ぶりです。伊藤岳取締役執行役員営業本部長は、電気代や燃料代などのコストが想定以上に大幅に上がり、さらなる値上がりもほぼ間違いない状況だとして、自衛的に上げざるを得なかったと説明しました。値上げ後の価格(ベース)は、H形鋼がトン11万9,000円、ホットコイルが10万6,000円、厚板が11万3,000円などです(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月20日付1面)。
建材メーカーも続きます。日鉄建材は10月20日、建築建材製品と丸パイプを12月分(11月新規引き受け分)から値上げすると発表しました。軽量形鋼・角パイプ・ロールコラムの建材3品はトン5,000円の値上げで(デッキプレートは物件ごとの個別交渉)、建築建材製品の今年度の累計は2万5,000円、丸パイプは20%になります。母材の薄板値上げなどを転嫁するもので、母材以外の物流費などのコスト転嫁も図るため、さらなる値上げも検討します(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月21日付1面)。大阪製鉄(5449)も、一般形鋼の11月契約の販売価格をトン3,000円引き上げ、今年4月契約分以降の累計値上げ幅は1万4,000円になります(日刊産業新聞10月23日付1面)。
【なぜ重要?】先週は、関東の鉄スクラップ輸出価格が3カ月ぶりに5万円台へ戻ったことをお伝えしました(先週の必修ニュース)。今週も関東の電炉メーカーの鉄スクラップ購入価格は1,000円方続伸し、東京製鉄は22日から九州工場でも購入価格をトン1,000円上げています(日刊鉄鋼新聞10月20日・22日付)。原料と電気代の上昇を、製品値上げで追いかける構図が続いています。電炉メーカーの事情は電炉の深読み解説で詳しく解説しています。
3. 東京製鐵の上期決算──営業赤字35億円も、通期は黒字予想を維持
【何が起きた?】東京製鐵は10月23日、2027年3月期の上期(4〜9月)決算を発表しました。売上高は1,504億円(前年同期比12.3%増)に伸びた一方、営業損益は35億円の赤字(前年同期は60億円の黒字)でした。投資有価証券の売却益などで、中間純利益は23.9億円(同47.7%減)を確保しています。通期の予想は、10月16日に上方修正した営業利益10億円・純利益70億円を据え置き、配当予想も年40円のままです(同社の中間期決算短信)。
| 東京製鐵(個別) | 4〜6月 | 7〜9月(当ブログ計算) | 上期合計 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 729億円 | 775億円 | 1,504億円 |
| 営業損益 | ▲23億円 | ▲12億円 | ▲35億円 |
| 鋼材の販売単価(上期平均) | トン10万400円(前年同期は9万5,700円) | ||
| 鋼材の販売数量(上期) | 146.8万トン(うち輸出26.6万トン) | ||
【なぜ重要?】7〜9月の営業赤字は約12億円と、4〜6月の約23億円からほぼ半分に縮まりました(当ブログ計算)。会社は、今後も実施した価格改定が出荷単価に順次反映されるとして、通期の営業黒字化を見込んでいます。今週発表した11月の値上げも加わり、値上げが利益に追いつく下期になるかが焦点です。株価や指標を含めた最新の整理は東京製鐵(5423)の銘柄まとめをどうぞ(前段は筆者の見立てを含みます)。
4. 日本製鉄が造船ブロック加工の能力拡大を検討──造船用厚板は2035年に1.5倍も
【何が起きた?】日本製鉄が、造船ブロックの加工能力の拡大と、溶接の生産性向上で国内造船業の再生に貢献する方針を示しました。国土交通省と内閣府が昨年末に策定した「造船業再生ロードマップ」では、日本の年間の船舶建造量を現状の約900万総トンから2035年に1,800万総トンへ2倍に増やす目標を掲げています。日刊鉄鋼新聞によると、これが実現すれば、日本における造船用厚板の需要は現在の約270万トンから2035年には1.5倍程度まで増える可能性があります(日刊鉄鋼新聞10月22日付1面)。
厚板の需要分野の中で、造船向けが占める割合は4割強と最大です。日本製鉄は、①造船ブロックの能力拡大、②溶接生産性の向上──の2本柱で、国内の船舶建造能力の拡大に寄与することを検討しています。造船ブロックの加工はグループ会社も含めて現時点では手掛けていませんが、グループ会社の日鉄溶接工業と組み合わせて提案していく考えで、厚板ミルを構える大分地区や君津地区を含め、その他の地域での立地も選択肢に入れながら実現可能性を探ります。中西謙介参与・厚板・建材事業部長は「新たな造船ブロック加工能力拡大や溶接生産性向上などに貢献したい」と述べています(同)。
造船所の課題は人手不足で建造ペースが上がらないことです(先週の造船の人手不足の深読み解説参照)。鉄鋼メーカーが鋼板を売るだけでなく、ブロックに加工して納めるところまで担えば、造船所の作業を減らせます。鉄鋼と造船の分業が変わるかもしれない動きとして注目です(この段落の後段は筆者の見立てです)。
5. 上期の鉄鋼輸出は4%減の1,437万トン──粗鋼の7〜9月は2,000万トン割れ
【何が起きた?】財務省が10月21日に発表した貿易統計によると、2026年度上期(4〜9月)の日本の鉄鋼輸出は前年同期比4%減の1,437万トンでした。上期の実績を年率に換算すると、年度ベースで26年ぶりに2,900万トンを割る水準です(日刊鉄鋼新聞)。地域別では、アセアン向けが463万4,000トン(6%減)、中国向けが297万7,000トン(14.2%減)など。一方、上期の鉄鋼輸入は12.1%減の317万7,000トンでした(日刊鉄鋼新聞10月22日付1面)。
生産も弱含みです。日本鉄鋼連盟が10月22日に発表した速報によると、4〜9月の全国粗鋼生産は4,027万1,000トンで前年同期比0.5%増と小幅に増えたものの、7〜9月期は1,995万1,000トンと、2020年同期以来の2,000万トン割れとなりました。9月は634万1,000トン(前年同月比0.6%減)で、JFEスチール東日本製鉄所千葉地区の豪雨による減産なども影響しています(日刊産業新聞10月23日付1面)。
【なぜ重要?】先週お伝えした経済産業省の見通しでは、10〜12月の粗鋼生産は2,067万トンと前年を上回る計算でした。国内向けは持ち直しても、輸出が減り続ければ生産全体は伸びにくい構図です。日本の鉄鋼輸出が伸び悩む背景は鉄鋼輸出「3,000万トン割れ」の深読み解説で詳しく解説しています(この段落は筆者の見立てを含みます)。
6. 今週の短信──中国市況の続落、米クリフスの供給削減、中山製鋼の操業再開ほか
- 中国の鋼材市況が続落、国慶節明けも在庫増で需給緩和──上海地区の熱延コイル市況は1カ月でトン約2,500円下がり、半年ぶりの安値。全国粗鋼生産は1〜8月合計で6億5,185万トン(前年同期比3.1%減)だが、需要はそれ以上に減っている(日刊産業新聞10月19日付1面)
- 米高炉大手クリーブランド・クリフス、自動車用鋼板の供給を削減──価格が高騰しているスポット市場向けの受注を増やした結果、車用鋼板の供給力が低下し、日系メーカーを含む米国の自動車生産に支障が出ている(日刊鉄鋼新聞10月20日付1面)
- 中山製鋼所(5408)、熱延工場の操業を再開──9月12日の火災で停止していた熱延工場が安全確認を終え、10月17日から操業を再開。火災原因は調査中(日刊鉄鋼新聞10月20日付1面)
- 鉄鋼業界でキャリア採用が拡大──神戸製鋼所は2025年度の総合職採用のうち56%がキャリア(中途)採用。新卒中心から人材獲得の多様化へ(日刊鉄鋼新聞10月19日付1面)
- 東京地区の薄板市況、上昇ピッチが加速──酸洗鋼板に続いて冷延鋼板も騰勢。在庫が薄く「ナイモノ高」の様相(日刊鉄鋼新聞10月22日付1面)
- 電炉メーカーが製品の追加値上げに動くか → 動きました。東京製鉄は11月契約で全鋼材3,000円、大阪製鉄も一般形鋼3,000円を上げました(第2章)
- JFE千葉地区の高炉の回復状況 → 回復の発表は確認できていません。9月の粗鋼生産の減少要因として、千葉地区の豪雨による減産が挙げられています(第5章)
- 鉄鋼各社の上期決算 → 東京製鐵が10月23日に発表(第3章)。高炉3社はこれからです
7. 今週の用語解説
厚板(あついた)とは
厚さがおおむね6ミリ以上の鋼板。船の船体、橋、ビルの柱や梁、建設機械などに使われます。国内の厚板需要では造船向けが4割強を占め、最大の使い道です。
造船ブロックとは
船を造るとき、船体をいくつもの大きな塊(ブロック)に分けて工場で組み立て、最後にドックや船台でつなぎ合わせます。この塊がブロックです。ブロックを外部で造って運び込めば、造船所は組み立てに集中できます。
ひも付きと店売り
ひも付きは、鉄鋼メーカーが造船会社や自動車会社などの大口需要家と直接、価格や量を決める取引。店売りは、問屋・流通を通じて市中で販売する取引です。今回の日本製鉄の厚板値上げは、その両方が対象です。
粗鋼(そこう)とは
圧延などで製品にする前の、溶かした鉄から作った鋼のこと。国や会社の生産規模を比べるときの基本の物差しです。
8. まとめ──今週の3行サマリ
- 値上げの第2波が厚板・H形鋼・電炉製品へ──日本製鉄は厚板5,000円追加(今年度累計2万円)、東京製鉄は全鋼材3,000円、日鉄建材は累計2.5万円
- 日本製鉄が造船ブロック加工の能力拡大を検討──造船用厚板は2035年に約1.5倍の可能性、日鉄溶接工業と連携
- 輸出と生産は弱含み──上期の鉄鋼輸出は4%減、粗鋼の7〜9月は2020年以来の2,000万トン割れ
- 高炉3社(日本製鉄・JFE・神戸製鋼)の上期決算と、値上げが利益にどこまで効いたか
- 厚板の追加値上げが、造船所との交渉(船価)にどう影響するか
- 11月11日予定の関東鉄源協同組合の輸出入札で、鉄スクラップが5万円台を保つか
値上げが品種を問わず広がる一方で、輸出と生産には力強さが欠けた1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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厚板の値上げは造船所にとってもコスト増ですが、鉄鋼メーカーがブロック加工まで手伝う話も出てきました。鉄と船の関係が少しずつ変わり始めています。
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本記事の出典:日刊鉄鋼新聞(キャリア採用〔10月19日付1面〕、東京製鉄の11月販価・米クリフス・中山製鋼所の操業再開・関東の鉄スクラップ買値〔10月20日付1面〕、日鉄建材の値上げ〔10月21日付1面〕、日本製鉄の造船ブロック加工・鉄鋼輸出・東京地区の薄板市況・東京製鉄九州工場の買値〔10月22日付1面〕、日本製鉄の厚板・H形鋼の値上げ〔10月23日付1面〕)、日刊産業新聞(中国鋼材市況〔10月19日付1面〕、東京製鉄の11月販価〔10月20日付1面〕、日鉄建材〔10月21日付1面〕、日本製鉄の厚板・H形鋼、大阪製鉄の値上げ、全国粗鋼生産〔10月23日付1面〕)、東京製鐵「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」(2026年10月23日・PDF原本を確認)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。数値は各記事の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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