10月5日、鉄スクラップを電気で溶かして鋼材をつくる電炉メーカーの業界団体トップが、会員各社の上期決算について「かなりの会社が赤字に転落するのではないか」と危機感を示しました。ところがその11日後、電炉最大手の東京製鐵は、通期の営業損益を赤字予想から黒字予想へ上方修正しました。電炉は苦しいのか、持ち直しているのか──正反対に見える2つのニュースを、決算短信と業績修正の原本、新聞紙面の数字から読み解きます。
本記事は東京製鐵・合同製鐵・共英製鋼の決算短信と業績予想の修正(いずれも原本を確認)、日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の紙面をもとに、今週のニュースを深掘りする解説記事です。
※本記事は2026年10月17日時点の公開情報に基づき作成しています。数値は各資料の公表時点のもので、筆者の解釈・推測には「見立て」と明示します。
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- 1. 何が起きたのか──業界会長の「赤字」発言と、東京製鐵の黒字化修正
- 2. 深読み①:電炉の利益は値段の差で決まる
- 3. 深読み②:上場電炉3社の4〜6月期を並べてみる
- 4. 深読み③:東京製鐵はなぜ黒字を見込めたのか
- 5. 深読み④:それでも楽観できない3つの理由
- 6. 業界ウォッチャーの注目ポイント
- 7. 今回の用語解説
- 8. まとめ──このニュースをどう覚えておくか
1. 何が起きたのか──業界会長の「赤字」発言と、東京製鐵の黒字化修正
- 10月5日 普通鋼電炉工業会の定例会見──美濃部慎次会長(合同製鐵社長)が、需要の低迷に加えて鉄スクラップを中心としたコストアップが急激に進んでいると指摘。最も影響が大きいのは電力料金だとし、会員の上期決算について「かなりの会社が赤字に転落するのではないか」と述べた(日刊鉄鋼新聞10月6日付1面)
- 10月16日 東京製鐵(5423)が業績予想を修正──2027年3月期の通期営業損益を40億円の赤字予想から10億円の黒字予想へ引き上げ。上期(4〜9月)は営業赤字35億円の見込み(同社「業績予想の修正に関するお知らせ」)
美濃部会長は会見で、電力会社が来年度以降も基本料金の引き上げを打ち出していることについて「これ以上は受けきれない」と述べました。電力会社はコストをそのまま転嫁してくる一方、電炉の製品はゼネコンの力が強く、値上げが浸透するまでに時間がかかる──その差が表に出たのが上期だ、という説明です。需要面でも、普通鋼電炉工業会の会員による4〜8月の国内向け販売は約238万トンと前年同期より8万トン少なく、「極めて厳しい状況」と指摘しました(日刊鉄鋼新聞10月6日付1面)。
一見すると正反対ですが、2つは矛盾していません。東京製鐵も上期は営業赤字の見込みで、黒字になるのは下期を含めた通期の話です。そして会長の発言は業界の多くの会社についての見方で、東京製鐵1社の話ではありません。以下で、その中身を数字で確かめていきます(この段落は筆者の見立てです)。
2. 深読み①:電炉の利益は値段の差で決まる
電炉メーカーは、鉄くず(鉄スクラップ)を買い集め、電気炉で溶かして鉄筋やH形鋼などの鋼材をつくります。利益の源は、売る鋼材の値段と、買う鉄スクラップの値段の差です。業界ではこの差を「メタルスプレッド」と呼びます。ここから、溶かすための電気代や人件費、物流費などを払った残りが利益になります。
つまり電炉の利益を削るのは、①スクラップが上がるのに製品が上がらない、②電気代などのコストが上がる、③販売量が落ちる──の3つです。美濃部会長の発言は、この3つが同時に起きていることを訴えたものといえます。特に製品の値上げは、取引先との交渉を経て少しずつ浸透するため、原料やコストの上昇から数カ月遅れて効いてくるのが普通です(この段落は筆者の見立てです)。
日本製鉄やJFEなどの高炉メーカーは、鉄鉱石と石炭(原料炭)から鉄をつくります。電炉は原料が鉄スクラップで、エネルギーの多くを電気に頼る点が大きな違いです。そのため電炉は、鉄スクラップの相場と電気料金の影響を直接受けやすい業態です。電炉と高炉の違いや、鉄スクラップの品質の話は鉄スクラップ新規格の深読み解説でも解説しています。
3. 深読み②:上場電炉3社の4〜6月期を並べてみる
上期決算はまだ発表前ですが、7月末までに出そろった4〜6月期(第1四半期)の決算短信を見ると、業界の状況がよく分かります。
| 会社 | 4〜6月期の売上高 | 4〜6月期の営業損益 | 通期の営業損益予想 |
|---|---|---|---|
| 東京製鐵(5423)※個別 | 729億円(前年同期比1.3%減) | 23億円の赤字(前年同期は47億円の黒字) | 10億円の黒字(10月16日に40億円の赤字から修正) |
| 合同製鐵(5410)※連結 | 497億円(同3.9%増) | 4.5億円の黒字(同84.7%減) | 65億円の黒字(前期比33.8%減) |
| 共英製鋼(5440)※連結 | 871億円(同17.5%増) | 34億円の黒字(同20.9%減) | 155億円の黒字(前期比8.6%減) |
3社とも売上は横ばいか増えているのに、営業利益は大きく減っています。東京製鐵は赤字に転落し、美濃部会長が社長を務める合同製鐵も営業利益は前年同期の2割に満たない水準です。合同製鐵は上期(4〜9月)の営業利益も6億円(前年同期比89.0%減)と見込んでいます(7月31日時点の予想)。販売価格は上がっても、それ以上にコストが膨らんでいる──会長の発言を裏付ける数字です。
3社の中で減益幅が比較的小さいのは共英製鋼です。共英製鋼は米国のVinton Steelなど海外にも拠点を持っており、事業の地域が分散している点が違いの一因と考えられます(後段は筆者の見立てです)。なお、配当予想は東京製鐵が年40円(前期50円)、合同製鐵が年100円(前期180円)、共英製鋼が年70円(前期90円)と、3社とも前期より減らす予想です(各社の決算短信)。
4. 深読み③:東京製鐵はなぜ黒字を見込めたのか
東京製鐵の予想が今期どう変わってきたかを並べると、次のようになります。
| 時点 | 通期の営業損益予想 | 通期の純利益予想 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 4月(期初) | 40億円の赤字 | 0円 | 赤字予想でスタート、配当は50円から40円へ減配予想 |
| 7月17日(第1四半期決算) | 40億円の赤字(据え置き) | 10億円 | 4〜6月期は営業赤字23億円。営業損益予想は変えず |
| 10月16日(修正) | 10億円の黒字 | 70億円 | 7〜9月の改善を受けて上方修正。上期は営業赤字35億円の見込み |
10月16日の修正の理由について、東京製鐵は7〜9月期に製品の出荷単価が想定どおり上がったことに加え、主原料の鉄スクラップの購入価格が想定を下回ったため、計画に比べて営業利益が改善したと説明しています。さらに、同社が実施した価格改定が今後、製品の出荷単価に順次反映されていくことから、通期では営業利益の黒字化を見込むとしています。純利益は、資産の売却を進めた効果も加わります(同社「業績予想の修正に関するお知らせ」)。
計算してみると、上期が35億円の営業赤字で通期が10億円の黒字なら、下期(10月〜2027年3月)だけで約45億円の営業黒字が必要です(当ブログ計算)。会社は値上げの効果が下期に本格的に出てくると見ているわけです。第2章で説明した値上げは数カ月遅れて効くという電炉の特徴が、ちょうど上期の赤字と下期の回復という形で表れています(後段は筆者の見立てです)。
前期(2026年3月期)と比べると、電炉の苦しさがよく分かります。
| 東京製鐵(個別) | 前期の実績 | 今期の予想(10月16日修正後) |
|---|---|---|
| 上期の売上高 | 1,339億円 | 1,504億円(約12%増) |
| 上期の営業損益 | 60億円の黒字 | 35億円の赤字 |
| 通期の売上高 | 2,681億円 | 3,260億円(約22%増) |
| 通期の営業損益 | 72億円の黒字 | 10億円の黒字 |
売上高は2割以上増える見込みなのに、通期の営業利益は前期の約7分の1にとどまります。値上げで売上は膨らんでも、原料と電気代の上昇がそれをほとんど食ってしまう──黒字化はしても、利益の水準はまだ低いままです(後段は筆者の見立てです)。
5. 深読み④:それでも楽観できない3つの理由
- ① 鉄スクラップが再び上がり始めた──東京製鐵の上期を助けた、スクラップ価格が想定を下回るという状況は、9月中旬から変わりつつあります。10月9日の関東鉄源協同組合の輸出入札はトン5万2,077円と、前月から3,964円上がり3カ月ぶりに5万円台に戻りました。東京製鐵自身も10月9日・14日と購入価格を引き上げています(日刊鉄鋼新聞10月13日・14日付)
- ② 電気料金──美濃部会長は、電力会社が来年度以降も基本料金の引き上げを打ち出していると指摘しています。電気は電炉の主要なエネルギーで、上がった分を製品価格に転嫁できるかが問われます
- ③ 建設需要の弱さ──電炉の主力製品である鉄筋やH形鋼は、主に建物に使われます。会長は4〜8月の国内販売が前年を下回り「極めて厳しい状況」としています。一方で、データセンターなど大型の建築物件に期待を示しています(日刊鉄鋼新聞10月6日付)
①については、東京製鐵の修正は10月16日時点の情報に基づいています。会社自身も、実際の業績は主原料である鉄スクラップ価格や鋼材の市況などで大きく変動する可能性があると注記しています。美濃部会長も会見で、スクラップ価格は今後も5万円前後で推移しそうだとの見方を示していました(日刊鉄鋼新聞10月6日付)。製品の値上げが、スクラップと電気代の上昇をどこまで上回れるかが、下期の業績を左右する最大のポイントです(後段は筆者の見立てです)。
6. 業界ウォッチャーの注目ポイント
- 電炉各社の上期決算──会長の「かなりの会社が赤字に」という見方が、実際の数字でどこまで当たるか。東京製鐵は上期の営業赤字35億円を見込んでいます
- 11月の関東鉄源協同組合の輸出入札(11月11日予定)──鉄スクラップが5万円台を保つか、さらに上がるか
- 電炉各社の製品価格──鉄筋・H形鋼の値上げが、ゼネコンなど需要家にどこまで受け入れられるか
- 大型建築の動き──データセンターや再開発など、電炉製品の需要を下支えする案件が具体化するか
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7. 今回の用語解説
■ 電炉(でんろ)
電気炉の略。鉄スクラップを電気の熱で溶かし、鋼材に生まれ変わらせる設備、またはそれを使うメーカーのこと。高炉に比べて二酸化炭素の排出が少なく、脱炭素の流れで注目されています。
■ メタルスプレッド
鋼材の販売価格と、原料である鉄スクラップの購入価格の差。電炉メーカーの利益の源泉で、この差が縮むと利益が減ります。
■ 業績予想の修正
上場企業は、期初に出した業績予想が大きく変わりそうなとき、修正を発表します。東京製鐵は10月16日、上期と通期の予想を修正しました。
■ 個別と連結
「個別」はその会社単体の決算、「連結」は子会社を含むグループ全体の決算。東京製鐵は個別(非連結)、合同製鐵と共英製鋼は連結の決算のため、表の数字は単純には比べられません。
8. まとめ──このニュースをどう覚えておくか
- 業界会長は「かなりの会社が赤字に」──電力料金とスクラップ高、建設需要の弱さが同時に重なった
- 4〜6月期は3社とも大幅減益、東京製鐵は赤字──売上は横ばい〜増加でもコストが上回った
- 東京製鐵は通期で営業黒字10億円へ上方修正──値上げの浸透と、7〜9月のスクラップ安が効いた
- 2つのニュースは矛盾しない──上期は赤字、値上げが効く下期に回復という時間差の問題(見立て)
- 下期の鍵はスクラップと電気代──関東のスクラップは3カ月ぶり5万円台、値上げがこれを上回れるか
電炉は値上げが遅れて効く業態。赤字のニュースと黒字化のニュースが同時に出るのは、そのタイムラグのせいです。
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本記事の出典:東京製鐵「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年7月17日)・「業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年10月16日)、合同製鐵「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月31日)、共英製鋼「2027年3月期 第1四半期決算短信(英文版)」(2026年7月31日)・「米国拠点における設備投資計画の再変更に関するお知らせ」(同日)、日刊鉄鋼新聞(普通鋼電炉工業会・美濃部会長の会見〔10月6日付1面〕、関東鉄源協同組合の輸出入札・電炉の買値〔10月13日付1面〕、東京製鉄の買値〔10月14日付1面〕)。いずれも原本・紙面を直接確認。下期の営業損益は当ブログの計算です。
本記事は公開情報に基づく解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「深読み」の解釈・将来予想には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は各社の公式発表をご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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