「業界の人と話すとき、話題に困りたくない」「先週何が動いたか、最低限これだけは押さえておきたい」──そんな鉄鋼業界に関わる方のための、週次キャッチアップ記事です。今週(2026年10月26日〜10月30日)は、「国内では輸入鋼材への守りを固め、海外では大型投資が相次いだ週」でした。中国・台湾産のニッケル系ステンレス冷延鋼板への不当廉売関税(AD関税)が5年間の本措置として決まり、10月31日から課税が始まりました。海外では、日本製鉄が米USスチールの製鉄所に約30億ドルの新しい熱延設備を、JFEスチールがインドの合弁製鉄所の粗鋼能力を2倍以上にする投資を決めています。国内では電炉・特殊鋼の値上げが続く一方、流通は値上げを売値に転嫁しきれていません。
本記事は2026年10月31日時点の公開情報(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の紙面、財務省・各社の発表ほか)をもとに、業界人なら最低限押さえておきたい先週のトピックスを1本に凝縮しました。これだけ読めば打ち合わせや雑談で「情報通だね」と言ってもらえる、実用的な内容を目指しています。
※本記事は日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞の2026年10月26日付〜10月30日付の紙面、財務省・日本製鉄・JFEスチール・大同特殊鋼の発表ほかの公開情報に基づき作成しています。数値は各記事・各発表の公表時点のものです。
📖 この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 1. ステンレス冷延のAD関税が本決定──中国・台湾に5年間、税率は最大42.1%
- 2. 日本製鉄、USスチールに約30億ドルの新熱延──モンバレーの能力を350万トンへ
- 3. JFEスチール、インド合弁の粗鋼能力を950万トンへ──2030年稼働、高炉を新設
- 4. 電炉・特殊鋼の値上げが続く──共英製鋼5,000円、中部鋼鈑は厚板で累計2万円
- 5. 大同特殊鋼が通期予想を上方修正──半導体装置向けステンレスが好調
- 6. 今週の短信──鉄スクラップ購入量の4年連続減、鉄鋼グローバルフォーラムほか
- 7. 今週の用語解説
- 8. まとめ──今週の3行サマリ
1. ステンレス冷延のAD関税が本決定──中国・台湾に5年間、税率は最大42.1%
【何が起きた?】政府は10月27日、中国と台湾を原産地とするニッケル系ステンレス冷延鋼帯・冷延鋼板に不当廉売関税を課す政令を閣議決定しました。政令は10月30日に公布され、10月31日から2031年10月30日までの5年間課税されます。税率は、今年7月9日から課していた暫定措置と同じ3.6%〜42.1%です。2025年7月22日に始まった調査を受け、関税・外国為替等審議会が10月19日に5年間の課税が適当と答申していました(財務省の発表)。
| 原産地 | 対象の供給者 | 税率 |
|---|---|---|
| 台湾 | 燁聯鋼鉄(YUSCO)など6社 | 3.6% |
| 台湾 | それ以外 | 20.1% |
| 中国 | 主要5社 | 27.7% |
| 中国 | それ以外 | 42.1% |
日本鉄鋼連盟、特殊鋼倶楽部、ステンレス協会の3団体は27日、連名で「公正かつ独立した立場で本調査を進めた結果と受け止めている」とのコメントを出しました。あわせて、国内の生産者として、需要家がAD措置の対象鋼材をタイムリーに調達できるよう努めていく考えも示しています(日刊産業新聞10月28日付1面)。
【なぜ重要?】効果はすでに数字に表れています。財務省の貿易統計をもとにした日刊産業新聞の集計では、ニッケル系冷延の輸入元は2025年は中国が4割、台湾が3割弱を占めていましたが、今年1〜8月は韓国が4割、中国が2割、台湾が1割に変わりました。一方で、インドネシアが1割、ベトナムが1割弱と、中国・台湾以外からの輸入が増えています。今回の調査ではインドネシアが対象から外れていたことから、メーカーからは迂回輸出を防ぐ制度の適用や、東南アジア各国への措置を求める声が上がっています(日刊産業新聞10月29日付1面)。
AD関税は中国・台湾の安値品をせき止める一方、買い手(需要家)にとっては調達先の切り替えを迫られる話でもあります。業界団体がそろってタイムリーな供給に触れたのはそのためです。ステンレスに続き、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)にも暫定のAD関税がかかっており、日本鉄鋼連盟の広瀬政之会長(JFEスチール社長)は28日の会見で、GIの速やかな最終決定や、熱延・冷延鋼板のAD調査の迅速化に期待を示しました(日刊鉄鋼新聞10月29日付1面)。
2. 日本製鉄、USスチールに約30億ドルの新熱延──モンバレーの能力を350万トンへ
【何が起きた?】日本製鉄(5401)の完全子会社であるUSスチールは、米ペンシルベニア州のモンバレー製鉄所エドガー・トムソン地区に、約30億ドル(約4,700億円)を投じて新しい熱延設備を建設することを決めました。老朽化した既存設備を新鋭設備に置き換え、年間の生産能力を約220万トンから約350万トンへ拡大します。ウォーキングビーム式の加熱炉やサイジングプレスなどを導入し、生産性・省エネ・歩留まり・品質の安定を高めます。必要な許認可を取得した後に建設を始め、2029年後半の稼働を予定しています(日本製鉄の10月23日の発表、円換算は日刊産業新聞10月26日付1面)。
【なぜ重要?】今回の投資は、日本製鉄がコミットしている110億ドルの投資計画の具体化の一つです(同社の発表)。熱延は、高炉でつくった鋼を薄く延ばして鋼板(ホットコイル)にする工程で、自動車や家電向けの鋼板の土台になります。米国内で質の高い鋼板を増やせるかは、関税で輸入品が入りにくい米国市場で、日本製鉄がどれだけ稼げるかに直結します(後段は筆者の見立てです)。日本製鉄の業績や株価の見方は日本製鉄(5401)の銘柄まとめで解説しています。
3. JFEスチール、インド合弁の粗鋼能力を950万トンへ──2030年稼働、高炉を新設
【何が起きた?】JFEスチールとインドのJSWスチールは10月23日、両社が50%ずつ出資する合弁会社JSW JFE Steel(JJSL)のサンバルプル製鉄所(オディシャ州)で、粗鋼の生産能力を年450万トンから950万トンへ、500万トン増やす設備投資を決めました。稼働は2030年の予定です。高炉1基、コークス炉2炉団、ペレットプラント1基、転炉2基、スラブ連続鋳造機2基、熱延ライン1基、発電設備などを新設し、将来的には年1,500万トン規模まで段階的に広げる構想です(JFEスチールの発表)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 粗鋼生産能力 | 年450万トン → 950万トン(2030年稼働予定) |
| 将来構想 | 年1,500万トン規模 |
| 出資比率 | JFEスチール50%・JSWスチール50% |
| JJSLの規模 | 売上高 約2,200億ルピー(約3,800億円、2025年度)、従業員 約2万5,000人(うち直接雇用 約5,000人) |
| JFEの狙い | 海外戦略の中核と位置付けるインド事業の成長加速 |
JFEスチールの小川博之副社長は26日のIR説明会で、2030年以降に稼働するこのプロジェクトで年間500億円程度の利益を取り込みたい考えを示しました。同社は2035年度をターゲットとする長期ビジョンで、海外事業を通じて年間2,000億円を稼ぐ青写真を描いています。投資額は明らかにしていませんが、資金はJJSLの自己資金と借り入れが基本で、足りない分を出資会社が支える方針です(日刊鉄鋼新聞10月27日付1面)。
【なぜ重要?】第2章の日本製鉄(米国)とあわせ、日本の高炉大手が、国内で減る需要を海外の成長市場で補う流れが、具体的な設備投資として形になった週でした。国内の粗鋼生産が伸び悩むなか、各社の稼ぎ頭が少しずつ海外へ移っていく構図です(この整理は筆者の見立てです)。業界全体の見通しは鉄鋼業界の将来性は?2026年最新版でまとめています。
4. 電炉・特殊鋼の値上げが続く──共英製鋼5,000円、中部鋼鈑は厚板で累計2万円
【何が起きた?】先週の日本製鉄・東京製鉄に続き、今週も値上げの発表が相次ぎました。
| 会社 | 品種 | 値上げ幅 | 時期・累計など |
|---|---|---|---|
| 共英製鋼(5440) | 異形棒鋼 | トン5,000円 | 11月契約、全事業所 |
| 中部鋼鈑(5461) | 厚板 | トン5,000円 | 11月契約。昨年12月以降4回目で、累計2万円 |
| 王子製鉄 | 平鋼・角鋼 | トン3,000円 | 11月契約。2025年10月契約以降の累計1万9,000円 |
| 新関西製鉄 | 平鋼・角鋼など全製品 | トン3,000円 | 11月契約から、4カ月ぶり |
| 愛知製鋼(5482) | 構造用鋼・ばね鋼・軸受鋼 | トン5,000円以上 | 11月契約から。工具鋼は5〜7% |
理由はどの社も共通で、電力料・ガス代などのエネルギーコストや資材・物流費の上昇です。共英製鋼は、今回の値上げだけでは十分な採算の改善には至らないとして、次月も同額以上の値上げを検討します(日刊鉄鋼新聞10月27日付1面)。中部鋼鈑は、データセンターや工場・物流倉庫などの建築向けや、半導体製造装置などの設備向けが堅調だとしています(日刊産業新聞10月28日付1面)。
【なぜ重要?】ただし、値上げは流通の売値にまだ追いついていません。日刊産業新聞が東京・大阪の流通企業99社に行った10月の調査では、メーカーの値上げを受けた年初からの売値の転嫁幅は「5〜10%」が44.3%で最多、「0〜5%」も16.5%でした。高炉メーカーなどが段階的に累計トン2万円程度(約20%)値上げしたのに対し、店売りの販売価格の上昇は限られている実態が浮かびました(日刊産業新聞10月30日付1面)。メーカーは上げたいが、流通は売り切れない──来月以降の値上げの浸透が焦点です。電炉メーカーの採算の事情は深読み解説|電炉は本当に赤字なのか、東京製鉄の下期の見通しは東京製鐵(5423)の銘柄まとめで詳しく解説しています。
5. 大同特殊鋼が通期予想を上方修正──半導体装置向けステンレスが好調
【何が起きた?】特殊鋼大手の大同特殊鋼(5471)は10月29日、2027年3月期の通期連結業績予想(IFRS)を上方修正しました。為替差損益や在庫評価損益などを除いた調整後営業利益は450億円(前回予想401億円)に引き上げ、日刊鉄鋼新聞によると実力ベースの営業利益として過去最高になります。理由は、半導体製造装置向けのステンレス鋼や自由鍛造品などの高機能製品の受注が旺盛なことに加え、産業機械向けの需要が堅調なことです。中間配当も、直近予想の24円から4円増やして28円としました(同社の発表、日刊鉄鋼新聞10月30日付1面)。
| 大同特殊鋼(IFRS・連結) | 前回予想(5月15日) | 修正後予想 | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,300億円 | 6,800億円 | 5,781億円 |
| 調整後営業利益 | 401億円 | 450億円 | 399億円 |
| 税引前利益 | 420億円 | 470億円 | 448億円 |
| 親会社株主に帰属する当期利益 | 275億円 | 310億円 | 326億円 |
| 年間配当 | ─ | 56円(中間28円) | 49円 |
同じ日、トヨタグループの特殊鋼メーカー愛知製鋼も2027年3月期の業績予想を上方修正しました。一方で上期(4〜9月)の税引前利益は前年同期比13%減の80億円でした(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月30日付1面)。
【なぜ重要?】建築向けの普通鋼が苦しむ一方で、半導体・産業機械向けの特殊鋼は強いという、需要の二極化が鮮明です。高炉大手の上期決算はこれからで、値上げがどこまで利益に効いたかが見どころです(この段落は筆者の見立てを含みます)。
6. 今週の短信──鉄スクラップ購入量の4年連続減、鉄鋼グローバルフォーラムほか
- 国内メーカーの鉄スクラップ購入量、4年連続で減少──日本鉄源協会によると、2025年度の国内鉄鋼メーカーの購入量は前年度比3.7%減の1,981万トン。加工スクラップは553万トン(3.0%減)、老廃スクラップは1,428万トン(4.0%減)で、いずれも4年連続の減少。一方で輸出量は11.2%増の722万トンと3年連続で増えた(日刊産業新聞10月29日付1面)
- 鉄鋼グローバルフォーラム、迂回輸出への対応強化で合意──鉄鋼の過剰能力問題を話し合う多国間の枠組み(GFSEC)が9月末、サプライチェーンの透明化策などを盛り込んだ包括的行動枠組みで合意。日本鉄鋼連盟の広瀬会長は28日、流通経路の透明化と迂回行為への対応強化を評価した(日刊鉄鋼新聞10月29日付1面)
- 日鉄建材、日鉄めっき鋼管を吸収合併へ──完全子会社の日鉄めっき鋼管を2027年4月1日付で吸収合併。一体運営で意思決定の迅速化や業務の最適化を図る(日刊鉄鋼新聞・日刊産業新聞10月30日付1面)
- 流通の7割が「グリーン鉄」を扱う予定なし──日刊産業新聞の流通調査で、低CO2鋼材(グリーン鉄)を「扱い予定なし」とした流通企業は73.5%。在庫販売に「関心がある」は33.0%、「現時点で関心はない」は45.7%(日刊産業新聞10月30日付1面)
- 高炉3社の上期決算 → 今週は特殊鋼の大同特殊鋼・愛知製鋼が発表(第5章)。高炉3社はまだです
- 厚板の値上げが造船所との交渉にどう影響するか → 船価への影響を伝える報道は確認できていません。ただし電炉の中部鋼鈑も厚板を5,000円上げ、厚板の値上げは広がっています(第4章)
- 11月11日予定の関東鉄源協同組合の輸出入札 → まだ先です。来週以降にお伝えします
7. 今週の用語解説
不当廉売関税(AD関税)とは
外国の企業が、自国で売る価格(正常価格)より安い値段で輸出し、輸入国の産業に被害を与えている場合に、その差額分を上限として上乗せする関税です。英語のアンチダンピング(Anti-Dumping)の頭文字からAD関税とも呼ばれます。日本では財務省と経済産業省が調査し、政令で課税を決めます。
ニッケル系ステンレスとは
鉄にクロムを10.5%以上加えてさびにくくした合金鋼がステンレスで、そのうちニッケルも加えたものがニッケル系です(今回のAD関税ではニッケルの含有量0.6%超が対象)。さびにくく見た目もきれいなため、厨房機器や建材、化学プラントなどに使われます。
熱延(ねつえん)とは
熱間圧延の略。高温に熱した鋼の塊(スラブ)をローラーで薄く延ばし、コイル状の鋼板(ホットコイル)にする工程です。ホットコイルはそのまま建材などに使われるほか、冷延鋼板やめっき鋼板の材料にもなります。
調整後営業利益とは
会社の発表する営業利益から、為替差損益や在庫評価損益など、本業の実力と関係の薄い一時的な要因を取り除いた利益です。大同特殊鋼は、特別損益に当たる項目、為替差損益、在庫評価損益などを調整して算出しています。
8. まとめ──今週の3行サマリ
- ステンレス冷延のAD関税が本決定──中国・台湾に10月31日から5年間、税率3.6〜42.1%。中台材は減ったが、東南アジアからの輸入が増加
- 高炉大手の海外投資が具体化──日本製鉄はUSスチールに約30億ドルの新熱延、JFEはインド合弁の粗鋼能力を950万トンへ
- 値上げは続くが、流通の転嫁は追いつかず──共英製鋼・中部鋼鈑が5,000円上げ、特殊鋼は大同特殊鋼が上方修正
- 高炉3社(日本製鉄・JFE・神戸製鋼)の上期決算と、値上げが利益にどこまで効いたか
- ステンレスのAD関税開始後、インドネシアなど東南アジアからの輸入がさらに増えるか
- 11月11日予定の関東鉄源協同組合の輸出入札で、鉄スクラップが5万円台を保つか
輸入鋼材への守りを固める動きと、海外での攻めの投資が同時に進んだ1週間でした。これだけ押さえておけば、明日の打ち合わせや業界人との会話で恥をかかずに済むはずです。引き続き毎週このシリーズで「業界人の必修ニュース」をお届けしていきますので、定期チェックにご活用ください。
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本記事の出典:財務省の発表(ニッケル系ステンレス冷延鋼帯・冷延鋼板に対する不当廉売関税の閣議決定、2026年10月27日)、日本製鉄のニュースリリース(USスチール・モンバレー製鉄所の熱延設備新設、2026年10月23日)、JFEスチール「JSW JFE Steel Limitedにおける生産能力拡張の決定について」(2026年10月23日)、大同特殊鋼「2027年3月期 第2四半期(中間期)業績予想と実績との差異および通期業績予想の修正、ならびに剰余金の配当に関するお知らせ」(2026年10月29日・PDF原本を確認)、日刊鉄鋼新聞(JFEのインド合弁の利益見通し・共英製鋼の値上げ〔10月27日付1面〕、鉄鋼グローバルフォーラム・広瀬会長の会見・愛知製鋼の値上げ〔10月29日付1面〕、大同特殊鋼・愛知製鋼の決算・日鉄建材〔10月30日付1面〕)、日刊産業新聞(モンバレーの投資額の円換算〔10月26日付1面〕、AD関税の閣議決定・3団体のコメント・王子製鉄と中部鋼鈑の値上げ〔10月28日付1面〕、供給者別の税率・輸入元の構成・鉄スクラップ購入量・愛知製鋼の値上げ〔10月29日付1面〕、流通調査・新関西製鉄の値上げ・大同特殊鋼・愛知製鋼・日鉄建材〔10月30日付1面〕)。証券コードはYahoo!ファイナンスで照合。数値は各記事・各発表の公表時点のものです。
本記事は公開情報に基づく業界ニュースの解説であり、特定企業への投資勧誘を目的としたものではありません。「なぜ重要?」の解説には筆者の見立てを含みます。最新かつ正確な情報は、各社の公式発表や一次情報を必ずご確認ください。記載内容に基づいて被ったいかなるトラブル・損失についても、情報提供者は一切の責任を負いません。

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